殴られて少し遠くなった意識で思うことは、顔はやめてほしいなっていうことだった。口の中が切れたらしく、血の味がする。どこでも好きなところを好きなように気の済むまま好きなように殴ればいいとは思っているけれど、仮にも人前に出る仕事をしている以上、見える場所は控えてほしいなと心の片隅で思ってはいる。「痛いのが気持ちいいんだろこのド変態が。いつも涼しい顔してクール気取ってるおまえがこんな変態だなんて知れたら、世の中のファンの子が泣くな」なんて、自分の行動を正当化しながら人のことを罵ってくれた奴は、その発言から一応俺の職業を認識してくれていることが知れた。ならばもうちょっと気を使ってくれよ別に殴るなって言っているわけじゃないんだからと言ってやろうかと思ったけれど面倒くさかったので「なら人を甚振って喜ぶお前も変態だろ」とだけ返しておいた。俺の言葉が気に入らなかったらしく、彼はより激昂して拳を振り上げてくるのを確認して、本当、しょうもないと思いながら俺は目を閉じた。