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赤い日

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 赤い日というのがある。空が、雲が、空気が、雨が、草が、人が、全ての存在が赤く染まる日だ。
 俺は、赤い日に生まれた。
 赤い日に生まれる子供は、異常である。母親(にんぷ)は、常に気を張っている。自分の子供が赤い日に生まれぬように。
 母さんは、言った。
「6000グラムもあったのよ」
 と。赤い日に生まれた俺は、やはり異常だった。
 俺の右肩から、指先までは、鉄分の凝固で出来ている。
 そして、3歳になる俺の脳は、崩壊を始めていた。赤い日の命は短い。
 医者は、憐れみと不気味な物を見る目を母に隠しながら、言った。
「5つまで、年を越せれば…奇跡です」
 母は、医者を見送ったその足で、俺の枕元に立ち尽くす。
「息子、あんたは、母さんが好き?」
「うん」
「母さんにも、一緒に死んで欲しい?」
「……母さんは、どうなの」
「父さんも逝ってしまったし。あんた、どの人の子か、分からないから、貰ってくれないだろうしねえ。……私には、息子しかいないの。だから本音を言うと、一緒に連れていって欲しい」


 4年後、頭が朦朧とする俺の前で、世界は、再び赤く染まった。
 赤い日が来たのだ。
 空気は、色が付いても、透明な冷たい味がしていた。
 母さんは、寝たきりの俺の横に座り、赤い本を開く。空気が赤くて、その本が何色なのか判別出来なかった。
 赤い中、普段と変わらぬ唇が、音読を始めた。
「1956年、4月。赤い日に誕生した赤子。6人。うち1名、現総理の従兄弟でヘドロ状で誕生。うち1名、首から下が無い奇形児。うち4名、母親の手により殺害され死亡。ヘドロ質内部、首内部に人では無い、生存に必要な内蔵所持。首の奇形児・飯森直孝、それまで、不定期で、共通点など無いとされていた赤い日が訪れる周期を割り出す公式を、発見、発表。」
「2005年、3月。赤い日に誕生した赤子、2万名。赤い日が来るにも関わらず、生んだ母親に、某国で処刑命令。日本では、44人の赤子が強制的に病院に隔離され、世間に論争を巻き起こす。赤い日の子ら、全員病院内で死亡。平均寿命2・2歳。どの赤子も、天才・異常を抱える。うち1名、病院を抜け出し、養鶏場で鶏36羽を喰い殺し、胃の破裂により死亡。これにより、赤い日に生まれそうになる胎児を、薬物により生まれ無いようにする事を義務づける、赤日(せきじつ)法が既決」
「2007年、11月1日。日本だけで、3名の赤子。全員奇形。うち1名、髪に新種の毒。うち1名、足しか無い身体。うち1名、鉄分で出来た右腕を所持。赤い日に誕生する子供は、1年に満たずに成人になる。現在、生存1名。右腕以外に、異常が無いためか、現在も生存」
 ひと息吐いて、母さんが微笑む。俺は、正直に答えた。
「新記録達成!」
 母さんは、おかしげに肩を震わせる。俺も、咳き込みながら笑った。
「来年は……」
 と母さんは、優しい手付きで俺の頭を撫でる。
「赤い子らの墓参りに行きましょう」
 それは、俺以前の、赤い日に生まれた子たちが一緒くたにされた、名前だけの墓標。慰霊碑。母さんは、俺が生きているという未来を願って、そう問いかけている。だけど俺は、自分が来年までもつとは、思えなかった。だから、母さんに、来年じゃ嫌だと首を振る。
 今から?
 悲しそうに、もう本当に泣きそうに、母さんは俺の異端の、指を握る。
「違うよ」
 俯いた顔が、上がった。
「また、次の赤い日に、行こう」
 全てが赤くなる、10年後に。
 俺の遺骨を抱いて、赤の墓に連れていってくれ。
 そして最後まで、自分が死ぬと言えずに、無駄な希望を抱かせようとする、俺を、許して欲しい。

作品名:赤い日 作家名:謹祝