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Alf Laylar wa Laylah

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第二幕 焔の魔神




 数日の滞在ならエドも慣れていたけれど、それが長くなるにつれ、さすがに疲労は溜まっていった。何しろ沙漠では本当に一人きりだ。
 けれど、それでも少年はめげたりしなかった。当たり前だ。目指す目的に近づいている手ごたえは確かにあったのだから。
 それに彼は全くの一人きりだったわけではない。
 そんなにも頻繁に呼び出したりはしなかったが、休息を取る時には指環のジンを呼び出して冒険王の話を聞いたり、進路を確認したりもしていたのだ。だから一人きりの旅だったわけではない。

 そして、街を出て一月近くが経った頃。
「あっ…」
 砂だらけの沙漠が終わりを告げ、わずかに草の生える岩石砂漠へあたりが姿を変えた。小さな少年は切り立った崖のよう場所に立ち、渓谷の底を見遣った。
 恐らく雨季には川となるのだろう。渓谷には水が流れた痕のようなものが見て取れた。そして、本当に一番底の部分にはわずかに流れが出来始めていた。確かに雨季は近かった。
 だがエドは勿論雨季を待っていたわけではない。川を探していたわけではないのだ。井戸の位置は地図で常に確認していたし、キャラバンと行き会う時もあった。それに、本当にどうしようもない時には指環のジンがいた。奇跡的に(だがそれは努力の上に与えられたものではある)エドは渇くことも飢えることもなく旅の日々を過ごしていた。もっとも、それ以外にひやりとすることは幾度かあって、休息を取って目覚めたら近くで盗賊が馬を休めていた時などは一瞬心臓が止まるかと思ったものだ。幸いにも、エドが寝ていたせいで気配を取られることなく、小柄で完全に岩陰に隠れていたおかげで事なきを得たが。それどころか盗賊の話を偶然に盗み聞きすることで、この場所に辿り着く日が早まったのだから、本当に幸運だったといっていいだろう。
 彼らは、乾季になると現れる洞窟の話をしていた。何かありそうな気がするが怪しくて踏み込めない、と誰かが言えば、誰かが、あれはやばい、あの中には何かいる、近づかないほうがいい、と強硬に答えた。会話の中で、それを主張したのが呪い師であることがわかり、その洞窟は怪しい、とエドは判断したのだ。呪い師達はジンに近い存在だ。その呪い師が「何かいる」ということは、期待が持てる。
 エドは一度深呼吸をしてから、慎重に指環の石を擦った。
『ほいよ〜』
 相変わらず緊迫感のない声と共に、自称マースという指環のジンが登場する。いい加減この唐突さにも慣れたな、と思いながら、エドは視線で渓谷の側面にある洞窟を示した。
「おっさん、アレがそうか」
 真剣な顔での問いかけに、ジンは両手を握る形にした。
「おっさん?」
 んぐぐぐ、となぜか力むジンに、エドは瞬きするのみだ。ジンの言動はしょっちゅうわけがわからなくなる。勿論、これにも慣れたが。
『パーン! おっめでっとー!』
「うわぁっ」
 ぐぐぐ、と握っていた手を、マースは開いた。途端に色とりどりの…紙ふぶきのようなものが飛び散った。それでようやく、ああ、祝うというかそれ的な何かをしようとしたのか…、と、少年も覚った。覚ったが、口元が引きつるのは留められなかった。そういったリアクションはあまり期待していなかったので。
『おお、随分早かったな、ここまで』
「…もっとかかる予定だったのか?」
『そうさなあ、おまえさんの足が思ったより速かったんだろうが…雨季にかぶっちまうか、雨季を越してからかな〜、と思ってたよ』
「雨季になったら相当待たなきゃなんねーじゃねえか、またやり直しだ」
 エドが呆れて言い返せば、でもよ〜、とマースはなんだか落ち着かない。一体何なんだ、と眉根を寄せれば、ま、これも運命かな、なんて勝手に呟いて納得している。やっぱりジンはわかんねえ、とエドもさっさと納得することにした。とにかく、時は金なり、だ。
「――あそこにいるんだよな? 王様のジンは」
『王様のジン?』
「昔話じゃそう呼んでた。オレはイフリートだと思ってるけどさ」
 当たり前のように言ったら、マースは口笛を吹いた。ジンって思ったより器用だし人間ぽいよな、と今さらのように思いながらエドはそちらを見た。
「…なんだよ?」
『おまえさん、やっぱり面白いねえ。あいつも気に入りそうだ』
「あいつ? 誰だよ?」
『あ、いや、なんでもねーぜ、っと。よっし、じゃあ行くか?』
「…ああ」
 怪訝に思いながら返せば、マースは張り切って歌いだした。よくわかんねえな、とは思ったが、今は目的が先だとエドは頭を切り替えた。

 指環のジンの魔力はあまり大きくない、とのことで、エドはマースに大掛かりなことを頼んだことはなかった。といって、そもそも頼むほどのこと自体があまりなかったのもあるのだが。
 崖を降りてその洞窟に行くのにしても、昔話の冒険王の相棒であれば瞬時に移動させるくらいのことはしてくれたのだろうが、マースにはそれほどの力はない。
 だが、縄をかけた石の固定を強くすることくらいは出来る。エドは遠慮なく重石の強化をジンに頼み、そうして躊躇なく岩壁を降下していった。この先には幼い日から夢に見た「王様のジン」がいる。その一念で。
 ――楽しげな様子で「がんばれ」と励ます、自分の周りをふわふわするマースを見るともなく見ながら、エドは彼と会った日を思い出していた。

 それは、この旅を始める直前だったから、一ヶ月と少し前になるのだろう。
 冒険王が最初に彼の相棒と出会ったと思われるあたりの洞窟や遺跡は何度も探していたが、それでもその時マースが封じられた指環を見つけたのは偶然だった。
 ここだろうか、と目星をつけた遺跡が空振りだった帰り、エドは竜巻を避けるため殆ど横穴といった方がよいような洞穴に滑り込んだ。無事に竜巻をやり過ごし出て行こうとしたエドだったが、見た目より洞穴の奥行きがあることに気づき、好奇心から奥へ向かっていった。ちょうど入り口からだと、奥へ向かうあたりにある大きな石の陰になって奥が見えないようになっていたのである。小柄に助けられ(つまり進路は狭かった)奥へと進めば、少し低くなっていて、ひんやりした風が吹いてきていた。水の匂いに敏感なのは、生まれ育った土地のゆえか。エドは驚いて湧き水があると思しきあたりに向かった。
 そして見たのだ。
 さほど大きくない泉の中央には燭台のような物が据えられ、その頂点のくぼみから水は湧き出ていた。そしてその湧き出る中心にはぼんやりと光があり、近づいてみれば、光っているのは古ぼけた指環だった。
「…指環…」
 エドは息を呑んで見入っていた。その古ぼけた指環のどこにも光を放つ要素は見当たらなかったが、現実に指環は光っていたし、それどころか狭い空間には明かりもないのに光が満ちていた。光源は泉の中心。
「…?」
 エドは、指環の回りに光の幕のようなものがあり、指環には水が当たっていないということに気づいた。
「………」
 頭に浮かんだのは昔話の指環のジンだった。だがもし違ったとしても、魔法の宿ったものに違いはないだろう。錬金術という可能性も捨てられないが。
作品名:Alf Laylar wa Laylah 作家名:スサ