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Alf Laylar wa Laylah

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第三幕 金の魔法使い




 最初の冒険というか、手始めの世界一周は駆け足だった。本当に一瞬で世界中を回ってしまえた。そしてそうなるとさすがに疲労困憊で、エドは熱を出した。知恵熱かもしれないし、疲労が一気に噴出したというのもあるだろう。
 とりあえず街に帰る、といえば一瞬ロイは不思議そうな顔をした。街を出たいと言っていたのに帰るのか、ということだろう。それには、苦しい息の下こう説明した。
「だって、一回帰るって約束した」
「誰と」
「弟と。まあ、無事だって伝えないと、やっぱりさ」
 そう答えたら、なるほど、とロイは腕組みし、…けれどなぜかエドの街とは全然違う街の近くへ降下を始めた。絨毯は消え、エドはロイの腕に収められてしまう。子ども扱いは腹立たしかったが、今は体の節々が痛くて、だるくて、もうそれどころではない。
「そういうことなら、使いを出しておく。心配するな。それより今は君はその熱を下げた方がいい」
「…ぱぱって、治らない、のか?」
 治してくれないのかと見上げれば、ロイは呆れたような顔をした。
「出来ないことはないが、あまり勧めない」
「…なんで?」
「君はまだ成長期だから。そういう時期は、きちんと地道に治した方がいいんだ。君の冒険への意気込みが、短期間で解消されるなら今すぐ治してもやれるが」
 どうなんだ、と目で問われ、エドはぐっと詰まった。そういわれると逆らいづらい。
「まあ、どうしても戻りたかったら体を治してからにするんだな」
 したり顔で言って、ロイはエドを抱えたまま宿屋に入っていこうとする。そんな路銀は、とさすがにエドが顔を上げると、任せていろ、とばかり頷かれた。
「でも、でもちょっと待って、あんた、上、なんか、着て…」
 だったらせめてこれだけは、と訴えたら、ああ…? と不思議そうな返答があった。実は路銀よりも家よりもそれが気になっていたエドだった。理由はいくつかある。いくら風貌がそうではないといっても、上半身まったく裸というとこういってはなんだが奴隷や人足を連想させ、エドの中の「王様のジン」への憧れを損なってしまうこと。それから、こちらの方が重要なのだが、そのエドと違うたくましく完成された体躯になにやら落ち着かない、居場所のないような気持ちを抱いてしまうから。そして、それまでは二人きりだったからそれでもまだよかったけれど、街中に入ったら確実に目立って、今だって人目を集めまくっているのが朦朧とした意識でもわかるくらいだったから。
 そんなわけで、イフリート自身にはよくわからなかったようだが、エドにとっては実際切実な問題だったりしたのだった。

 風通しのよい部屋の寝台に横になり、額に水で濡らした手布を置いてもらって、エドは横になっていた。体は大分楽になっていた。
 ――宿の帳場で、どうするのかと内心気が気でなかったエドだが、ロイはどんな魔法なのか、帳場の人間に腕輪を見せただけったのに、宿は慌ててこの最高の部屋(と、思われる)を用意したのだ。まるで化かされたようだった。
「…なあ、さっきの、なんだったんだ?」
 エドは、今は長椅子でくつろいでいるように見えるロイに問いかけた。焔の属性を持つ彼は水にはあまり触りたくないとかで、手布を手で置いてくれたのは最初だけだった。だが温度が上がってくると、指先を向けて温度を下げてくれた。冷たいのか優しいのかいまひとつわからない男だ。
「さっきの、とは?」
「腕輪…見せてただろ」
「ああ、あれか」
 ロイは、ああ、と頷いて説明してくれる。
「巡検使の腕輪だよ。巡検使は王の直属だからな、宿代も取らないと思うぞ」
「…あんた、巡検使なのか?」
「まさか。私はイフリートだぞ? そんなもののはずがないだろう」
 エドはロイをまじまじと見た。どうも馬鹿にされているような感じがしてならないが、被害妄想なのだろうか。
「じゃあ、魔法?」
「…まだ熱が高いぞ。熱が下がったら説明してやるから、もう少し寝た方がいい」
 これではどちらが主かわかったものではない。エドは口を尖らせたけれど、今はこのイフリートの言うことが尤もだったので、渋々目を閉じた。頬に当たる風は気持ちい。自分の街と同じように、ここにもオアシスがあるのだろう。後で街の名前を聞いてみよう、そう思いながら、エドは眠りに落ちていった。

 とろとろと眠りに落ちていく少年を見ながら、イフリートは立ち上がった。
「……」
 ――変わった人間、いや、変わった子供だと思った。
 前の主、親友も十分に人間としては変わっていたが(よく言えば懐が大きかったが、普通に考えれば変わっていたのだろう)、今度の主も変わっている。
 とにかく見た目があまりにも幼いのがひとつ。十五だと言っていたが、せいぜい十二、三にしか見えない。しかしその外見とは裏腹に随分と知能は高いようで、その落差がすごい。
 目を閉じていれば鮮やかな印象が少し穏やかなものになって、少年だか少女だかわからないようにも見えた。勿論、体つきを見れば少年なのはすぐにわかるのだが。
「錬金術師、か」
 術師の中にはジンに興味を持つ人間もいる。そうした連中には過去まみえたことがないでもなかったが、その中にエドのような人間はいなかった。もっと陰湿で、偏執的な連中が多かった。中にはそうでないものもいたけれど、…そこまで考えて、ロイはひとりの人物を思い浮かべた。エドとは違うが、奇妙にエドと近い印象をもつ人物と過去に一度邂逅していたことを思い出したのだ。
 一番似ていたのは金の髪と金の瞳。エドのそれより、もう少し濃かったかもしれないが。
「…なんといったか、あの男は…」
 どこか砂漠の街で、老いた錬金術師に仕えていた、元奴隷の弟子。エドがあと数年もしたら記憶にある男と同じようになるかもしれないと考え、もしかしたら子孫かもしれないな、と何となく思った。
 暗い部屋に閉じこもりひたすらに研究をする術師とは、彼は違っていた。イフリートである自分を見ても、ああなるほど、本当にいたんだな、ジンってやつは、と怖がるでもなかった。それどころかちょっと血を分けてくれないか、だめなら髪の毛とか、と貪欲に望んできたのにはこちらが恐れ入ったものだ。そんなものを何にする気だと返せば、なに、ちょっと研究に、と悪びれもせずにいうものだから、笑ってしまった。
 さすがに血や髪の毛をやることは出来ないが、力の欠片くらいならくれてやろう、と魔力を小さく結晶化したものをくれてやった。楽しませてくれた代償にしては安いものだった。
「…ヴァン・ホーエンハイム?」
 変わった男の名前を思い出し呟く。もしもその時エドが起きていたなら驚いたことだろうが、幸か不幸か少年は深く眠っていたので、衝撃的な事実は結局知らないままになった。
 イフリートが彼の父親の名前を呟いていたという、その事実を。



 エドが出て行ってそろそろ二ヶ月という頃、彼の街では、錬金術師が領主に呼び出しを食らっていた。面倒そうに出て行く夫を、妻は心配そうに見送ったけれど、なに心配は要らない、とへらりと笑って彼は出て行った。
作品名:Alf Laylar wa Laylah 作家名:スサ