あたしとリツコの徒然草
あなたの知らないあたしの世界
メールをしても、素っ気ない返事。
絵文字のない画面は、冷たく見える。
だけど、違うよね?
あたしのことを、嫌いになったわけではないでしょう?
あたしには見えないリツコの心は、あたしをいつも不安にさせる。
昔、お父さんが言っていたの。
「本当の友達なんてどこにもいないんだ。結局人は独りぼっちなんだ」って。
父に一体何があったのかは訊けなかったけど、今なら分かるよ。
学校を出て、社会に出で、あたしはどんどん友達をなくした。
世の中に荒んでゆく人もいたし、新しい人間関係にさらわれていく人もいた。
あたしはそんな友達を、引き留めようとは思わなかった。
自然途絶える連絡。
あえて寄り添っていこうとしない自分には、きっと、『本当の友達』になる覚悟がなかった。
だけど、悲しい。
自分勝手だけど、悲しい。
鳴らない携帯電話と、真っ白なスケジュール帳。
あたしが切り捨てた分だけ、あたしは切り捨てられた。
向き合おうとしなかった分だけ、背を向けられた。
「分かりたくなかった」
お父さん。
あなたが世界をどんな風に見ていたかなんて、分かりたくなかった。
カチリカチリとメールを打つ。
『会いたい』
と送ると、
『いいよ』
と返ってきた。
絵文字のない素っ気ない画面。
待ち合わせの場所に現れたのは、いつものリツコ。
「馬鹿者。また、何を悩んでるんだ」
いつものリツコが、いつもの口調で言った。
お父さん。
あたしはやっぱり独りぼっちは嫌だから、もう少しだけ勇気を出します。
ちゃんと、真っ直ぐ、立っていようと思います。
人と向き合うのは怖いけど。
繋いだ手を離さないでいることは難しいけど。
「馬鹿だなぁ」
リツコが言ったから、あたしは頷いた。
それから少しだけ、笑った。
作品名:あたしとリツコの徒然草 作家名:ハル