へぇ。
え?何?何言ったの?
「だ…から、手前のことが、」
『好き』
…はぁ?
ん?は?え?何?
今、目の前で何が起こっている?
「…な、にシズちゃん ついに気でも狂った?」 俺は取りあえず冷静を装い。
「狂ってねェよ。…ずっと好きだったんだ。 ずっと、ずっと…。」
シズちゃんがこっちによって来る。 何これ。
「なん、で…?」
シズちゃんに突き付けていたナイフが手から落ちる。カランと乾いた音がする。
何で? 俺の頭の中は何でしか出てこない。学校の屋上は冬でひどく寒い、筈なのにあつい。顔が赤くなる。
ぎゅっとシズちゃんに抱きしめられ、
『好き』をシズちゃんが唱えると俺は、
俺は。
俺は…?
俺は、どうなんだ? 何で顔を赤くしてる? 何で、なんでナンデ何でなんで、
「何で、俺は拒否ってないんだ」
思っていることが声に出た。
シズちゃんはきょとんと俺を見る。
でもそれもつかの間、悟ったような顔して続けた。
「返事は、いらない」
そう俺に告げ、去って行った。
どさっと力が抜け、ひざから落ちる、抜ける。
「…あったかい。」
俺は肘を抱き、言った。
何で拒否らなかったとかは考えなかった。
そんなことを考えると、あの時のシズちゃんの顔も思い出してしまう。
あの、全てを悟ったような顔、悲しそうな顔、
?
また、俺の心の中を?が覆った。
何で、そんなに俺はあんな怪物のことを考えてるんだよ。
またそんなことを考え、かっと顔があつくなったのを1人屋上で感じていた。
===
チャイムが鳴り、下校の音楽が鳴る。
生徒たちはがやがや帰り始める。
そんな中、俺はぼおっと一点を見つめていた。
同じクラスメイトの岸谷新羅が俺の隣の席に座り、
「ねぇ臨也」
と話を始める。
「静雄と、なんかあったんじゃないの」
こういう時って、新羅、鋭いよね。本っっ当興味深い人間だ。
「別に?そんなことないけど?」 俺は適当にかわした。 正確には、つもりでいた。
ばんっと机をたたく音。
それと同時に、
「臨也君さ、嘘をつくとき髪をいじる癖がある。 情報屋志望なら、直すべきだよ」
そう新羅はぴしゃりと言い捨て、足早に帰って行った。
「本当に…今日は何なんだよ…」
そう自分だけに聞こえる声で呟いて、心の蟠りの本人を見てみた。
(…寝てる)
教室に彼と自分以外居ないことを確認し、
シズちゃんの寝ている席の隣に座る。
(顔だけは良いんだよね。)
そう思いつつ、すうすうと気持ちよさそうに寝ているシズちゃんを見る。
少し傷んだ金髪、アーモンド形の瞼。
その傷んだ金髪を少しさわり、
「カッコいいじゃん、シズちゃん」
そうつぶやいてしまった。
思ったことを、言ってしまうなんて俺らしくないな。
そんなことを思っている間もなく。 もう遅かったんだ。
「…手前だって可愛い、臨也」
ぐっと伸びてきた手に腕をつかまれ、立たされ、抱きしめられる。
またあの感覚が俺を襲う。 あったかい…。
「シズちゃ、」 俺が言いかけたその時。
「可愛い…。可愛い、臨也…」
そう甘く低い声でシズちゃんが俺の耳元でささやく。
生暖かい息が俺の耳に当たる。
「ふぁっ」
やばっ何この声。羞恥で顔が赤くなるのを感じる。
「そんな声も出るんだな、臨也」
シズちゃんがまた意地悪く耳元でささやく。
「っ、」 息をのんで喉まで出そうになっている声を抑える。
俺が声を我慢したことに、少し不満そうな顔でシズちゃんはもう一度耳元で、
「声我慢すんな。聞きたい。」
と言い、再び抱きしめる。
不安と安定感に包まれた不思議な心情の中、シズちゃんが俺に顔をかぶせてきた。
「っ!?」
驚くことしかできない俺は手足をじだばたさせる。 しかし、シズちゃんの怪力でねじふせられる。 …ああ。
触れるだけだったキスは深くなり。
「ん、…っんむっ はぁ…」 俺は俺の喉から出たとは思えない様な甘い声で息をしていた。
長いキスが終わると、シズちゃんが俺とシズちゃんの間にできた銀色の糸を勿体なそうに見つめる。 やっぱり、格好いいんじゃん。
はぁはぁ、と荒い息が誰もいない教室を包む。
「…なぁ、臨也。 俺、こんなことしてるのに、なんで嫌がらないんだ…?」
そうおずおずと俺に聞くシズちゃんの目には少しの期待と多めの不安を映していた。
「おい、臨「シズちゃんなんか大っ嫌いっ」
俺はそう声をかぶせて荷物も持たず、教室を出て行った。
シズちゃんなんか大嫌い。
俺は人間を愛してる。大好きなんだ。
なのに、
駄目、なのに、
いけないことなのに、
怪物なんか…っ
…『好き』に、なっちゃいけないんだ。
===
ざあ、とふる雨の中、家についた俺は立ち止まっていた。
「荷物、忘れた…」
(どうでもいいや)
今はシズちゃんのことしか考えていられなかった。
「シズちゃん…」
一日中俺しかいない部屋でずっと呟いていた。
何度も、何度も、何度も、何度も。 何度も、呼び続けていた。
呼んでたら、「なんだ?臨也。」と優しく笑った顔でシズちゃんが応えてくれると思って。 そんな俺を馬鹿だとは思った。 が、やっぱり、無理なんだよ…。
===
翌朝。 いつもは心地よいと思う朝日もぜんぜん気持ち良くなかった。
「ううー、」と寝不足の俺は時計を見る。
「やば…っ」
時計の針は午前九時。
学校ではもうすでに授業が始まっている。
急いで支度をし、服を着替え、寝癖も直さず俺は学校へ走る。
走って走って走って、
…着いた。
だけど、目の前にあったモノは標識…をもつシズちゃん。
きっと俺の今の顔は赤くなっていると思う。多分。いや、絶対。
昨日のことを思い出すと顔は赤く染まるばかりで。
「シズ、ちゃ…?」 そうつぶやくと同時に標識が飛んでくる。
こんな時にも俺のからだは素直で。その標識をすらりとかわし、
そして、また素直に俺の体が次の行動に移る。
ぎゅっ
シズちゃんをぎゅっと抱きしめた。
校門の上から飛んできたシズちゃんは身を反らせる。
しかし、そんなものは今の俺にはもう抵抗でも何でもない。
…俺の気分を向上させるものでしかなかったのだ。
「お、い…臨也、何し「ちゃんと聞いてよシズちゃん」