海竜王 霆雷 年越し
くくくくく・・・と、次男は肩を震わせている。兄弟四人でやると、大抵が長男が、適当に負けてくれるから真剣味がない。だが、この雷小僧は真剣に熱くなってくれるだろう。
「ハンデもらうぞ、二兄。」
「もちろん、たくさんあげるよ。というか、おまえ、兄上と組んで私たちと対戦すればいい。それなら、ちょうどいいだろう。」
「あら、陸続では弱すぎるわ。背の君、私くしがお教えしますから、必ず、勝たせてさしあげます。」
おまえたち、負けなさい、と、長女は、じろりと弟たちを見回す。それ、脅迫だし? と、三男が苦笑して指摘する。
和やかに、食事をして、そろそろ軽く運動でもするか、と、四男が立ち上がる。続くのは、三男と美愛だ。
「背の君、鬼ごっこはいかがですか? 」
「本気でいい? 」
「はいはい、本気で、やってください。」
差し出された手を取って、それから、長男の手にある書物を、ふいっと自分の手元に跳ばした。
「一兄、これ、返してほしかったら、来いっっ。」
「おや、私なのかい? 霆雷。・・・じゃあ、風雅、碧海、おまえたちは、母上の手伝いに参じてくれ。それから、焔放、父上が逃げたみたいだから捕獲しておいで。」
それだけを命じて、陸続が、優雅に逃げた末弟と姉を追い駆けて窓から出て行く。やれやれ、また、逃げたか、と、次男は、頭を掻きつつ、こちらも立ち上がる。とりあえず、父上を捕獲するか、と、三男と四男も、その場から消える。護衛の衛将軍には自分たちのような超常力はない。捕獲するのも至難の業だ。深雪の息子たちは、同じ力を有しているから、父親が逃げた場所も、きっちりと把握している。また、何かしら食べたくないものでも目にして逃げたのだろう、ということも、わかりすぎるほどにわかる。どうして、ああ、子供じみたことをするかなーと、次男も苦笑しつつ、父親の気配がするところへと跳んで行く。
明日は新しい年になる。その最後の日だが、大晦日にしては、のんびりとした朝だ。小竜が成人するまで、自分たちは、こうやって、ずっと過ごすのだと、小竜も理解してくれればいいと、長男は頬を歪めて、上空へと舞い上がる。
作品名:海竜王 霆雷 年越し 作家名:篠義