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5月は恋の季節

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5月は恋の季節5




ピンポン、ピンポン、と連打されているのが自分の部屋のチャイムだと言うことに気づいて、フランシスは頭から布団をかぶった。
聞きたくない。
何も考えずにいたかった。少しでも考えを巡らせばすぐに、行き止まりの恋に息ができなくなる。
自分がこんなにもろい人間だとは思わなかった。愛の人を名乗って気取っていたのが滑稽でいたたまれないほどだ。
本田に謝罪したあの日から、フランシスは一歩も外に出ていない。鏡も見ていない。ベッドに転がって自己嫌悪しているだけで三日が過ぎていた。

ピンポン、ピンポン…

チャイムはまだ鳴りやまない。

ピンポーン …ドン、ドン! ドンドンドン!!

チャイムの代わりに、扉が叩かれ始めた。熱を込めたそのリズムに、フランシスはしぶしぶ布団から頭を突き出した。
先ほどより鮮明になった音がやみそうにないので、のろのろと玄関脇のインターフォンへ向かう。重力に逆らうのがおっくうで、時々床に寝転がってしまいたくなったが、なんとか到着すると闖入者の顔を拝んでやろうとカメラのスイッチを入れた。
そこに想像通りの顔を見つけてため息が漏れる。
スイッチを切るとそのままベッドに引き返そうとして、扉の外からの声に足が止まった。

「おーいフランシス、出て来んでほんまにええんやなー? 菊ちゃんおるんやでー?」

相変わらず力強く扉が叩かれているせいで聞き取りにくいその声に、信じられない思いで玄関扉を見つめる。
まさか、そんなはずはない。
そう思っていても、今のフランシスには本田の名前だけで強い影響力がある。その場に釘づけにされたように動かないでいると、一旦扉を叩くリズムがやんだ。
ごそごそとした物音の後で、先ほどよりはクリアにアントーニョの声が聞こえる。

「ほら、ちょっと菊ちゃん、フランシスのこと呼んでみ?」

フランシスののどが独りでにつばを飲み込んだ。

『あの、フランシスさん……?」
「っ! 本田!」

思わず扉に駆け寄って、大きく開いた。

「よぉフランシス。ひっでえ顔だな! ケセセセ」
「いやあ~すごい効き目やん。親分の読みは大当たりやったわ」
「……」

そこに本田菊の姿はなく、期待して舞い上がった分を地に叩き落とされたフランシスは思わず歯をくいしばって悪友たちを睨みつける。

「おっかねえー」
「いやーん、そんなに怒らんといてー。親分らってば、フランシスのことが心配やったんもーん」

どちらかと言うとにやにや笑いながら、ギルベルトとアントーニョは部屋主であるフランシスを押しのけて勝手に上がっていった。
頭に血が昇って、怒鳴りつけようとするフランシスの鼻先に、濃い赤色のケータイ電話が突きつけられる。

「親分たちときちーんと話すんなら、さっきの菊ちゃんの声のデータ、送ってやってもいいんやで?」
「ちなみに俺様のケータイには、失敗バージョンの、『ぼぬ、ぼぬふぉあさん?』が入ってる」
「……ま、まあ、あがっていって」

違う、断じて自分の名前を呼ぶ本田の声が聞きたいわけじゃなくて、心配してきたお前たちの友情に胸を打たれて、と言い訳がましく呟くのを全てスルーされた。
何度も来たことがある部屋で、ギルベルトとアントーニョはさっさとくつろぐ体勢にはいると、逆に部屋主に「そこに座れ」と促す。
態度の大きい友人たちに多少呆れながら、フランシスはラグに置かれたクッションを抱きしめて座った。自分の部屋だというのになんとなく居心地の悪さを感じる。普段は軽いノリの二人が、いつもの調子の裏でなんだか真剣に心配している。

「ほんなら、始めよか」
「おう、楽しい楽しい尋問ターイム!だぜ」
「尋問って……」
「そんなん決まっとるやん」
「お前らの態度についてだよ。た・い・ど!!」

二対一のこの状況はまずい。しかしフランシスが危険を察知した時にはもう遅かった。

「お前らの様子がおかしくなったの、あの飲み会の後からだろ?」
「んで、あん時やけど、酔っぱらった親分らと別れて、べろんべろんのフランシスは菊ちゃんと帰ったわけや」
「さらにー、ルートとフェリちゃんから聞いた“フランシスがしたらしい最低なこと”と“本田が激怒するようなこと”を足してみるとー?」
「あーら不思議、答えが出ましたー! ……ヤったんやろ、お前」

真顔で詰め寄られて、フランシスに出来るのは涙目で頷くことだけだった。

「うっわー、お前、マジでー……。確かにひょろっこいしちっちぇえし肌つるっつるだけど、男だぞあいつ」
「まあ菊ちゃんならギリギリセー……いやぁやっぱアウ……うーん。まあとりあえず合意じゃなかったんやろ、あんな怒ってるっちゅーことは」
「……覚えてない」
「「はあ?」」

綺麗に声をそろえて聞き返されて、フランシスは抱きかかえたクッションに顔を埋めながら「覚えてないんだ」と繰り返した。

「うわあ…親分もドン引きや……」
「すげー俺様も初めて見たわ、酒のせいでの一夜の過ち」

もういっそどうにでもなれ、と、フランシスはあの晩から今までの経緯を包み隠さずにぶちまけることにした。
重みを増すこの気持ちをすこしでも軽くしたかった。


作品名:5月は恋の季節 作家名:はまこ