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吉野ステラ
吉野ステラ
novelistID. 16030
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たとえばいつか哀しい空が 1-5

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4





  

   

燦々と朝陽があたたかさを伴って注がれ、さわやかに色づいていく。
悠に3人は横になれそうなベッドの上で、エドワードは目を閉じたまま身動ぎをする。
無造作に手をのばすとあたたかいものに指が触れた。己ではない誰かの肌。
優しいぬくもり。
そっと上に手を置くと、とくん、とくん、と鼓動が伝わってくる。
その規則正しい振動はまるで子守唄のようにエドワードの胸に響いた。
再び眠りの中に吸い込まれそうになる。
あたたかい。
それが何よりもエドワードにとって言いようのない幸福感を覚えさせた。

此処が唯一、己が安心できる場所。

エドワードはさらに心地よさを求めるように、隣で眠る男に擦り寄った。
厚い胸板の上に手の平を置いて、男の投げ出された腕の中に潜り込む。
そのまま首筋に鼻筋を寄せた。懐かしさでいっぱいになる。男の香りに身体中が弛緩する。
気持ちいい。
ずっとこのままでいられたら、どんなに幸せだろう。


「寂しがりやの猫のようだな君は」
ふいに至近距離で耳元にアルトテノールの声が響いた。
同時に長い腕が上から覆いかぶさってきて、その両腕に抱えこまれる。男の体温に包まれて、じわ、と身体中が解れるような感覚。
目を瞑っていたエドワードは睫毛をふるわせながら瞼を開いて、上目遣いで声の主を見上げた。
「起きてたのかよ」
意地が悪いと言わんばかりに睨むふりをしてみるが、エドワードの視界に入った男の顔はひどく優しく微笑みを浮かべていて。胸に何か熱いものが水滴のように落ちて、ふわりと波紋を広げた。
幸せすぎて怖い。
(俺、夢見てんのかな)
こんな日常を己が得ていることが。

「目を開けても…」
男がそう呟いて、エドワードの背中を抱いていた手で金糸の髪の毛を梳いた。
「君がここにいると、まだ夢なのではと思ってしまうな」
そう言ってその双眸はまた微笑んだ。
(同じことを考えるなよ…)
心の中だけでそっとエドワードは言い返す。
俺もそう思っていた、と言えば本当に夢で終わってしまいそうで怖かった。
くだらない感傷なのかもしれなくても。

「馬鹿」

だから、それだけ言い返して微笑ってやった。
ただ、愛しくて。
  

   
「さあ、そろそろ副官殿が迎えに来る時間だな」
弄んでいたエドワードの髪の毛をそっと放して、ロイはベッドの上に身を起こした。
裸体の上半身の上にはらり、と白いシャツを羽織る。
その後ろ姿を横になったまま見上げて、エドワードの胸にはふいに凶暴な衝動がこみ上げる。
あの身体をもう一度ベッドに押し倒して。その首筋に、火傷の跡に、太腿にくちづけて、そしてあの熱い手でこの身をぐちゃぐちゃに抱いてくれたら――

そこまで考えて、エドワードは目を伏せて嘲笑った。
難しいことはすべて忘れて、そんなことに没頭できるのなら、とうにそうしている。
「シャワーを浴びてくる」
「ロイ、今日は誰も迎えに来ないぞ」
部屋を出て行こうとしたロイにさり気なく声をかけた。
「どういうことだ?」
「俺が送っていってやるよ。そう伝えてある」
「いつの間に…」
「あんたが寝てる間にだよ」
エドワードも身を起こし、両手を万歳して伸びをした。
「そう、か…気付かずに、寝ていたんだな私は」
「疲れてんだよ、大総統殿は」
エドワードは、それだけ答えた。
実際のところは少し違っていた。あらかじめロイが服用している薬には、メイに頼んで睡眠導入剤を少し混ぜてもらっていたのだ。
(どうせ放っておいたら眠りやしないから)
一人で抱えるだけ抱えようとするこの哀れな男は。
薬のことは敢えてロイに言うつもりはなかった。しかし、もし気付かれてもエドワードは別に構わなかった。
(俺は俺のやり方で、この男を守るだけだ。)
「シャワー、浴びてこいよ」
困ったような表情を浮かべるロイが面白くて、ふ、と吹き出しながら、エドワードも準備をするために立ち上がった。



「あらエドワード君、おかえり!」
昨夜のこと。月が顔を出してかなりの時が経っているにも関わらず、レベッカ・カタリナ中尉の声は受話器越しでもよく跳ねていた。
「大総統は大人しくお休みなさってる?」
副官のさっぱりとした物言いに、エドワードは苦笑する。湿っぽい考えなど吹き飛ばしてしまうこの快活さに、きっとロイも救われているのだろう。
「ああ、すっかり就寝中」
「さすがエドワード君ね~、いつもは私たちが言ってもちっとも休んでくれないのよ」
「やっぱ無理してんだ、あいつ」
睡眠剤を飲ませたとはさすがに言えず、エドワードは話題を変える。
「かなりね。…まじめな話、大総統の政策に反発する老いぼれどもと、むやみにライバル心を燃やす青くさいやつが多いからさ」
レベッカの乱暴な言葉遣いに、彼女の気苦労が見てとれる。
「大総統は面白がってるけど、悩みの種はつきないのよね」
「そっか…」
「それで?どうしたの?」
「ああ…明日のあいつの予定、どうかなと思って」
「明日は10:00に会議。12:00から街中視察で14:30からは執務室で決裁処理よ」
すらすらとレベッカが答える。
「あいつまだ街中視察してんのか」
「ああいう性格ですもの。ちゃんと予定に入れとかないと、いつの間にか勝手にいなくなって困るのよ」
相変わらずあの男は有能な副官が首に縄をつけておかないといけないらしい。
「はは。大変だな中尉も。…じゃあ明日は俺が大総統府まであいつ送って行っていいか?」
「構わないけど…護衛をつけましょうか?」
「いや、いいよ」
「大総統を狙う人は結構いるのよ?」
「わかってるよ。あいつも俺も戦闘系の錬金術師なんだ、心配いらないさ」
それは民主制を提言する中では何の自慢にもならないことではあった。

すでに時代は変わってきている。
軍が持っていた力を、ロイは少しずつ、だが着実にすり減らしてきた。
軍による強制的な統治に恩恵を預かってきた人びとがそれに反発し、若き大総統を排除しようとしても無理はないのだ。
(だけどあいつはもう…)
エドワードはふと思うのだ。
あいつの中にはあとどれだけ闘う力が残っているのだろう。かつてのような弱きを排除する戦いではなく、己の身を守るための闘い。その力が果たして今の彼に残っているのだろうか?
恐ろしくなって、受話器を置いたエドワードはひとり、ふるふると首を振りため息をついた。