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赤色の絵具

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探さなきゃ。探さなきゃ。探さなきゃ。
 机の引き出しを引っかき回す。筆箱の中身をぶちまけて散らかす。引き裂く勢いで教科書のページをめくる。
 どこにいった。どこにいった。
 腕が震える。汗が止まらない。首筋がやけに冷えるのに、お腹の奥は燃えるようにに熱い。
 ない。ない。ない。ない。ない。
 頭がぼうっとする。確かに探し物をしているはずなのに、何を探しているのか、はっきりしない。
 一旦、手を止める。立ち上がって部屋を見渡してみる。足の踏み場もないほど、物が散乱している。とても自分の部屋とは思えない惨状になっている。壁に留めてあったカレンダーが落ちて画鋲が上を向いている。棚のフィギュアが床の上で身体を真っ二つにして転がっている。本棚の中身が乱雑に投げ出され山を作っている。
 絶対どこかにあるはずなんだ。もっと探さなきゃ。
 部屋の真ん中でぐるぐると回転しながら、見落としている場所を検索する。だんだん平衡感覚がおかしくなる。目が回る。視界が次第にぼやけていく。目眩に似た感覚が脳内を覆う。
 ふと、目に飛び込んできた、その場所。
 そうだ。
 まだあそこを探していない。
 探さなきゃ。探さなきゃ。
 急に止まったせいで、足元がふらつき大きく転倒する。左脚に鈍い痛みが走る。画鋲がふとももに刺さったのかもしれない。そんな事も構わず、部屋の隅にある押入れに這いずり寄る。腕を伸ばして、ふすまの取っ手を何とか掴み、勢いよく引き開ける。
 ゴトッ、ドンッ。
 上の棚から重い物体が転がり落ちる。正面からモロに突撃されて下敷きになる。慌てて押し退けてようとするが、やけに重くて苦戦する。歪な形をしていて、垂れ下がる髪の毛が鼻先をくすぐる。やけにヌルヌルした手の平を見返すと、絵具のような赤色がべっとりと付いている。
 絵具。
 その瞬間、急に思い出した。
 ああ、そうか。そうだった。
 美術で使う絵具を忘れて、家まで取りに戻って来たんだっけ。
 確か、押入れの奥にしまっていたんだよな。
 これのことかな。上に乗っかってる重いやつ。
 でも、こんなに大きくないよな、普通。
 しかもなんかヌルヌルするし、髪の毛あるし。
 もっとよく探さなきゃ。早くしないと<●●>に怒られちゃう。
 ズキィッ!
 頭を殴られたような激痛が到来する。逃れられない痛みにどうしようもなくなって頭を掻きむしる。
 <●●>って誰だ? そんな奴知らない。 誰に怒られるっていうんだ。 怖がることなんてないじゃないか。
 震える手を押さえながら深呼吸をすると、少し痛みが収まる。やっとのことで物体を押し退けて立ち上がる。
 押入れの棚をくまなく見回す。布団の上に大きく赤色が染み付いている。奥の方に、絵具の容器が何本か散らばっていた。中身の色がはみだして床に垂れ流れているが、構うことなくポケットに突っ込む。なぜか容器が異様に尖っているせいか、ポケットの裾に引っ掛かってしまい上手く入らない。
 痛っっ!
 思わず引き抜いて見ると、容器の尖った所が突き刺さったのか、人差し指から血が滲み出ている。それが、赤色の絵具がこびり付いた手の平に、混ざる。
 同じ、色だ。
 なんで、どうして。
 そうだ、さっき落っこちてきたやつ。確かあれを触ってて付いたんだ。
 血? こんな赤かったっけ? まるで絵具みたいじゃん。
 はは、当分は赤色に困らないな。そんなに使わないと思うけど。
 額に浮き出た汗を腕で拭うと、絵具と混ざって薄いピンク色になった。おもむろにくんくんと鼻を鳴らしてみる。油のような臭いがした。急にお腹がぐぅ、と鳴った。
 そういえば、お腹空いたな。今朝は朝ご飯食べたっけ。
 作ってくれなかったのか。<●●>がずうっと寝てたから。
 ちゃんと起こしてやったんだ。揺さぶって引っ叩いて殴って落として刺して。でもいつまで経っても起きないからどうしようもなかったんだ。大体寝すぎなんだよ。病気でもないのに、一週間も布団にこもりやがって。いつも邪魔だったから、頭にきて今朝は押入れの中に閉じ込めたんだっけ。だから学校に遅れたんだ。しかも忘れ物までするし。全部<●●>のせいだ。<●●>が悪いんだ。
 やばい、こんな事している場合じゃないや。
 早く、学校に行かなきゃ。
作品名:赤色の絵具 作家名:otto