小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

愛妻家

INDEX|1ページ/5ページ|

次のページ
 
…あのじいさんには一杯食わされましたよ。
そもそも私は芸術家ってのは苦手なんです。前々から思ってましたがあのじいさんのせいでますますその生来が強くなってきました。…

ソファーに座って早々雪山はそう嘆いた。
雪山の仕事は美術誌の編集だ。
特に有名な雑誌でもないが、そこそこ部数は出ているらしい。私も何度か仕事を受けたことがあった。
しかしながら雪山本人はどこにでもいそうな男である。見掛けで言えば中肉中背、しいていえば若干目が細い位しか個性を持ち合わせていない。
だが仕事には熱心で、文句を言いつつもきちんと毎回こなしているのだ。
それに図々しい話かたのくせに不思議と気難しい芸術家への配慮が上手い。そのためか彼本人の評判は意外にもよかった。
そして残念ながら私もその芸術家のなかに含まれていたりするのだ。
ただ私の場合は穏和なタイプなので(と自負しているだけだが。)専ら彼の聞き役に回っていた。
雪山は仕事以外で私を訪ねる事のがはるかに多く、そのたびに何かしらの土産と愚痴を私に押し付けるのである。

雪山はイライラと足を軽く踏み鳴らした。
これは機嫌が悪い時の彼の癖なのだ。
雪山はブンブンと頭を犬の様に振り回す。
これも雪山の機嫌が悪い時の癖だ。
つまり今雪山は相当機嫌が悪いらしい。
機嫌が悪い雪山ほどめんどくさいものはないので私は仕方なしに話を聞いてやることにした。
珈琲はと聞くと何もいらないと言う。
私は自分のブラック珈琲だけを煎れながら先を促した。
それにしても芸術家に芸術家の悪口を言うのはどうかと思うし、芸術家が嫌いならばなぜそんな仕事をしているのかと聞きたかったが彼にそんなことを聞いても無駄だと私は知っている。
だから何も言わずに雪山の話を聞くことにしたのである。
作品名:愛妻家 作家名:川口暁