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放浪12日目夜

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 監獄の中にも光はあり、監獄の中にも闇はある。


 燦々と光を降り注がせる太陽が消えりゃ、当然辺りは闇夜になる。
 そして薄明かりを放つ星の、瞬く様がお目見えする。
 煌々と躍る焔がなけりゃ、当然辺りは冷たく静まり返る。
 そして夜に息づく獣どもの、生き様と声が響き渡る。


 でかくて目の惹くモノから離れりゃ
 そいつに姿を消されてた連中が、顔を覗かせ蠢きだす。


 草原の中の一角で、キャンプを張る連中から
 いつもの通り適当な理由をつけて離れて草原の一角
 小さめの岩に凭れて星を見ては、ヤニを吸いながらぼうっと煙と空を仰ぐ。

 いつもの適当な理由付けの役は既にもう終わってる。
 だから火が消えてるのを確認したら、そりゃ戻ればイイんだろう。

 だがそもそも、昼間も人ごみもあまり好きじゃない。
 木を隠すには森の中、そう言う意味では居るべき場所だ。
 同時に慣れるべき場所だろう。
 ソイツはアタマじゃわかってる。

 だが燦々と降り注ぐ太陽を見ていれば居た堪れない気にも落ちりゃ
 ワイワイとはしゃぐ連中を見ていると壁を感じる時もある。

 そういう存在なのだから、それは当り前としか言えない事柄なんだが。
 そう言う役回りをしているのだから、それは仕方のないことなのだが。

 得意か、と言われたら得意じゃない。
 苦手か、と言われたら秒は悩む。
 その程度には苦手なのだろう。


 今までどんなことがあったか、か。
 近いことつったら――
 闘兎場で兎どもからさんざ光を浴びて、それでも奴らを肉塊に変えて。

 良くあったことなのに
 何故かココロが居た溜まれない気分に陥る……


 ……ヤクい。


 大慌てで胸ポケットを探り、ジョイントを探す。
 あるのはボロの煙草の紙の箱
 その中から手巻きで造ったおんぼろの紙巻きを取り出す。
 チビになったヤニを岩に押し付け消し、代わりにソイツを口に銜える。

「よっ。
 ココにいたなオークラダイジン」
「……。
 何しに来た」
「メシ持って来たんだぜ!喰ってねえだろ?」

 取り込み中にイイ冗談だ。
 マッチ箱がズボンのどこかと探しているそのさなか
 草むらからもみあげだけ白く染めている陽気なウェアウルフが顔を見せる。

「……要らねえ」
「いらねーってあ―……」

 俺の状況を見て何かを察したのか、少しひきつった顔を見せる。
 大分参った精神状態で紙巻きを銜えて探してたんだ。
 今俺を光の下で水鏡に映せば、やつれた鬼かイかれた悪魔と勝負できる形相じゃあンだろう。

「割り当てだからな!とりあえず置いて行くぜ?
 食わねーなら埋めて来世を待て!だな」

 けらけら笑って、人当たりも良く受けもイイ。
 こいつはポジだ、そういえば傍から見りゃよく見える。

 こいつは俺とは反対だ。
 恐らくそれは、一般的な評価からすりゃ当然だ。
 俺もこいつをそう評する。

「用が終わったならさっさとイくことを勧める、察したなら尚更だ。
 無闇にトリップに巻き込まれたいなら別だがな」
「いやいやいやいや。
 あの状況のオークラダイジンマジ怖いからな、ゴメンだぜ!」

 荷物を置けば、そそくさと陽気なソイツは背を向ける。
 賢明な判断だ。
 ≪治癒師≫やら≪薬師≫を自称し目指すならば尚更だ。

 何よりこいつは、ポジティブだ。
 それは良いだけの意味じゃない。
 ネガティブ……陰や影に当たる事柄を考えない――否、考えられない。
 そういう風に出来ている。

 だから陰には触れようとはしない、話さない。
 踏み込まないし踏み込めない。

 そこらはこいつの周りの連中は、果たしてどの程度気づいているのだろうか。
 特にこの白いのにいつもくっついている――あの赤眼が。

 俺に対し“白いのとは呼ぶな”と言ってきた、性別を捉えづらい翼の魔法使いは
 果たしてこの壊れたポジのことを、どの程度察せているのだろうか。

「おい待て」
「んお?どしたー?」

 ハッキリ言っちまえば、俺が気に掛けることじゃない……筈だ。
 気に掛けることじゃないがふわりと頭に登ってきた事柄。
 ならば相手に聞く程度ならば、恐らく不自然ではないはずだ。

「お前は、何て呼べばいい?」
「およ、何かあったんけ?」
「……いや、別に」

 マッチ箱を見つけ出しては火をつけて、銜えていたジョイントを大きく吸う。
 吸いながら焔を近づければ、ジョイントに炎が灯される。
 狂える甘い煙が立ち上がり、肺に臓腑に、身と心へ染みていく。

「貴様に聞いても無駄だった」

 焔がつき煙を上げるジョイントを中指を立てるように掲げる。
 陶酔が混じったイかれた目を向け口の端から煙を流す。
 薬に携わりコレを忌避するものが相手であれば、それだけで十分なジェスチャー。
 ウェアウルフは逃げるよう、夜闇にサックリ消えていく。


 こいつは壊れてる。
 そう言う意味では、俺とこいつは同じじゃある。


 ただ、その壊れ方が
 俺とこいつでは傍目からしたら反対で、こいつは割と良くある壊れ方。
 こういう壊れ方をしている奴は、良くある壊れ方なものだから
 自身も含め理解するものは滅多に居ないし巡り合うこともほぼないというコト。
 何しろ笑みを浮かべて楽しそうだから
 ハナから気にすら留められにくい壊れ方ってコト。

 ただ、それだけの話。
 昔どこかで聞いたお伽草紙を思い出すLvにココロへ浮いてきた
 ただ――それだけの事柄。
作品名:放浪12日目夜 作家名:門倉丁