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塚菊log

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外か内か




「ほいじゃー、いくよっ!」

そう言いながら赤い髪の少年は、元気良く拳を振り上げた。
対する他の面々は、試合中ですら滅多に拝めない様な、神妙な面持ちである。
ごくり、と誰かが喉を鳴らす音が、微かに聞こえた―――。

じゃーんけーんぽんっ!!




2月3日 節分の日。
例の如くお祭り大好き人間が騒ぎ出し、それに便乗した悪餓鬼共が数名。
そしてその筆頭ともいえる小柄で端正な顔を持つ男に上手い事丸め込まれ、巻き込まれた人間がこれまた数名。
顧問をも巻き込んで『豆まき』の開始である。

そうして始められた豆まきの、取り敢えず決めるべき問題事は、豆を撒くか、撒かれるか。
案の定揉めに揉めて、結局はこういった類のもので決着をつける羽目になった。
負ければ有無も言わさず痛い目を見、勝てば何食わぬ顔をして、思い切り痛めつける事が出来る。
本来豆まきはこういった行事では無い筈だが、それをこの連中に言っても無駄というものだろう。

―――黙認するに、限る。

手塚は今日何度目になるか分からない、それはそれは深い溜息を吐いた。



開始のゴングが鳴り響き、鬼となった手塚は一目散に逃げ出した。
妙な所で律儀な自分が恨めしい。
だがこれが自分の性格なのだから、仕方が無いとも思う。
出来るだけ喧騒から離れた場所へ向かおうと身を翻した途端、

「手塚発見!」

軽やかな声とは裏腹に、思いの他強い力で腕を掴まれた。
ギョッとして振り返ると、そこには事の発端である赤い髪の少年―――菊丸が居た。
彼は勝ち組だ。
こんな至近距離から投げつけられては堪らないと、腕を振り払おうとすると、意外にも菊丸は自らその拘束を解き、代わりにやんわりと手を握ってきた。

「手塚はこっちね」

にっこりと笑って導かれた先は、なんと部室だった。
訳が分からないままに部屋に入ると、それを見て可笑しそうに菊丸は笑った。
してやったり、なその表情を見るに、若しかしたら最初からそういう計画だったのかもしれないと、今更ながら気が付いた。
では何故、部室に?

「鬼は外、福は内。だから、手塚は『内』ね」

嬉しそうに笑いながら囁かれた秘密話に、けれどもサッパリ的を得ない回答だと、手塚は益々混乱した。
それを見て菊丸はより一層笑みを深くした。

「だから、『福』は『内』なの」
「…もっと簡潔に、分かり易く説明してくれないか」

渋面を作った手塚に対し、菊丸は矢張り可笑しそうに笑うばかりだ。

「手塚は俺の事好き?」

悪戯っぽい笑みを湛えたまま問われた言葉。
けれども瞳の奥は真摯なまでに。
―――回答は、勿論一つ。

「お前が好きだ」

真には真をもって。
飾らず気取らず、簡潔に。
それは絶対なる力と呪縛を持つ言葉。


菊丸は嬉しそうに顔を綻ばせると、だから手塚は内なんだと、そっと呟いた。

「だから何が『内』なんだ?」

不思議そうに問うと、さっきのが答えだよ、と返ってくる。

「あのね、俺は、手塚の事が好き。手塚と居ると、幸せなの。分かる?」

「だから『内』なの。今日は節分でしょ?“鬼は外、福は内”そう、『福』は『内』なんだよ。『福』は『幸せ』って事でしょ?」


「手塚は今日は鬼だけど、俺は手塚と一緒に居ると『幸せ』なの。だから俺にとって手塚は『内』になるんだよ」

飾らず気取らず、簡潔に。
シンプルな言葉ほど、絶大なる威力を発揮する。
そしてそれに笑顔を添えたのなら、それは最強の武器になる。
胸を貫き傷跡を残し、いつまでも己を縛り付ける、最強の武器に―――。


「手塚にとって、俺は『内』?それとも『外』?」

理解っているくせに聞いてくる彼がとても憎らしかったが、今回ばかりは全面降伏状態だ。

「勿論『内』に決まっているだろう」

観念した様に呟くと、柔らかな笑い声が部屋に響いた。


end.
作品名:塚菊log 作家名:真赭