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一夜の契りー同窓会の夜ー

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『一夜の契り(同窓会)』
 
 あれは夏のことである。祐司は高校の同窓会に出た。会場は駅前のホテルの一室で行われた。美恵子と隣になった。美恵子はクラスでも一番美しかった。大きく澄んだ瞳と気品に満ちた顔立ちをして男子の憧れだった。
 酒を飲みながら歓談するうちに、二人は意気投合した。
宴も終わると、「もう帰らなくちゃ」という美恵子を、無理やり、二人だけの二次会に連れ出した。

 そこはしゃれたバーだった。
 客はまばらだった。店の中はほんのり暗い。
 カウンタでバーテンが暇そうにしていたので、そこに祐司は美恵子を誘った。
「綺麗な店ね」
「ああ、静かに飲めそうだな」
 バーテンは祐司に注文を聞いた。祐司は「ウィスキーの水割りでいい」と言い、美恵子の方を振り向くと「私も」と笑みを浮かべ応えた。
黙ったままだった。しばらくして、二人の前にグラスが置かれた。
 最初に口火を切ったのは、美恵子の方である。
「意外ね」
「何が?」
「強引なところよ」
 祐司は美恵子の方を見た。
「そんなことはないと思うけど、でも、迷惑だった?」
「ほんの少しだけど…でも、もう、いいの。今日は旦那様がいないから」
「結婚しているんだ?」
 美恵子は軽く肯いた。
「だから、悪さをしちゃ、だめよ」と愛くるしい瞳をむけた。
 祐司は高校時代から腕力の強さで近隣の高校に知られていた。もっとも弱い者いじめはしたことはないし、また自分から喧嘩を売るようなこともなかった。それでも、彼のことをよく知らない者は避けるように歩いた。
「どんな人?」
「秘密よ」
「今日は大丈夫?」
「うん、旦那様は東京に行って今日は戻らないの」
「悪いことしたな」
「そんなことはないけど…」と呟くように言った。
 かなり酩酊になったのだろう、美恵子は自分の方から、身の上話を始めた。――夫とは二十歳以上もかけ離れており、貧しい状況から抜け出すために嫁いだ。旦は。何事にも事細かに指示した。風呂の湯加減、掃除の仕方、服装、挙げ句の果ては下着の色までも自分好み通りにさせた。美恵子は、はじめは反抗を試みたものの、必ず大声で怒鳴り返される。それでも反発すると、「お前の家族は誰のおかげで生きていられるんだ」とやりこめる。やがて、反発するよりも、従った方が良いと悟り、やがて、愚痴一つこぼさず笑みを絶やすことなく夫の言いなった。
「別れてしまえばいい」
「そうわいかないわ」
「どうして?」
「だって、路頭に迷ってしまうわ」と美恵子は微笑んだ。
「そんなら僕がもらってやるよ」
「口がうまいのね、そうやって何人も女を泣かせているのね」
「実を言うと、高校時代、ずっと君のこと、好きだったんだ」
「嘘ばっかり、私の方こそ、あなたに憧れていた。でも、いつも私を冷ややかに見ていた。意地悪されたこともあったわ。思い切って手紙を書いたのに返事もくれなかった…もし、返事をくれたなら…」
 祐司は美恵子を見た。少し悲しそうにみえた。
「手紙を?…」
「もう止めましょう…少し酔ったみたいね。過ぎ去ったことをあれこれと言うなんて、時計の針は戻らないわ、そうでしょう?」
祐司は言葉が詰まった。
 酔った頭の中で、時間を逆さにまわした。過ぎ去りし時間がゆっくりとよみがえった。手紙をもらった時、どれほどうれしかったことか。が、素直にその気持ちを言葉に表すことが出来なかったことも同時に思い出した。胸をしめつけるような思い…。
 祐司は意を決して、「好きだと言えなかった」と小声で呟いた。あの日に戻ったような気持ちで。
 店に流れる賑やかな音楽のせいでうまく聞き取れなかったのであろう、「何か言った?」と美恵子は聞き返した。
「いや、何も」と少年のようにはにかんだ。
「そう。顔が赤いわ、飲み過ぎた?」
「まだまだこれからさ」
 とりとめのない話をしているうちに、時間は静かに過ぎていった。
「もう、まあ、もう、こんな時間」と美恵子は驚きの声をあげた。
 美恵子は、立ち上がろうとしたら、少しめまいがして、立ち竦んでしまった。
「遅いよ、よかったらホテルに泊まろう。知り合いのホテルがあるんだ」
 美恵子はうなずき、「でも、部屋は別々よ」

 部屋はツインの部屋しか空いていなかった。
 部屋に入るとき、美恵子は、祐司を見て、「約束して今日は何もしないって」
 祐司は「大丈夫、何もしないよ」と軽く口付けをしようとしたが、美恵子は顔をそむけた。
 部屋に入ると、美恵子は窓辺に寄った。窓から美しい満月が見えた。美恵子は溜め息をつくように美しいと言った。まるで、祐司の存在を忘れたかのように、ずっと、林立するビルの上にある月を眺めていた。
「手紙のことだけど…」
「もう、いいの、遠い昔のことだから」
「出したくなかったのではなく、手紙が書けなかったんだ。君が好きだという、自分の気持ちを、素直に書けなかった…馬鹿げた話さ」
「言わないで…もうそれ以上…」
「言いたいんだ、君が好きだって」
 二人は顔を見合わせた。美恵子の眼にはうっすらと涙に覆われていた。
 最初に顔をそむけたのは美恵子の方だった。
「きれいなお月様」
 祐司は金色に輝く月より、美恵子のぴったりとまとわりついた黒っぽいワンピースの上からうかがえる、いかにも肉欲をそそるような、その丸いお尻に目が釘付けになっていた。我慢できなくなった祐司は、美恵子の後ろから抱きしめキスした。美恵子は軽いうめきを発したが、拒絶はしなかった。やがて、大胆の体中を遠慮なく触る祐司に美恵子は、甘く囁くように「だめよ」と呟いた。拒絶がかえって裕司の欲望に油を注いだ。もう、祐司はどうすることもできなくなっていた。
「何もしないって約束したでしょ? お願いだからやめて、夫がいるのよ。分かってよ、お願いだから、こんなこと、夫に知られたら、私…」と哀願した。
「好きなんだ、どうしょうもなく、君がほしいんだよ。分かってくれ」
 美恵子は何も答えなかった。観念し祐司の熱情を受け入れることにしたのか、目を閉じ、祐司のなすままとなった。そのうちに祐司の背中に手を回していた。何度か愛し合った後、二人は眠りについた…。

 翌日、彼が目覚めると、美恵子はいなかった。
 書き置きがあった。「いい思い出できました。思い出を大切にして生きます」と。
 「時間の針は戻らない」と美恵子が言った言葉を思い出し噛み締めた。