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コンビニへ行こう! 後編

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Take2 恐怖は忘却





「っ携帯!」


焦ったような帝人の声に、臨也もハッと我に返る。ジーンズのポケットから携帯電話を取り出した帝人は、すぐに通話ボタンを押して「もしもし」と呼びかけた。相手はおそらく、連絡があると言っていた店長なのだろう。
「はい、そうですね……あ、大丈夫です、近いので。……はい、わかりました、店長も気をつけて」
短い通話の後、ほっとしたように息を吐いた帝人は、まっすぐに臨也に向き直る。
「もうすぐ戻るので、帰宅の準備をしていていい、そうです」
「大丈夫なの?停電中だけど」
「店長がラジオで聞いた情報によると、近くの電線が切れたとか……、そうだとしたらすぐに電気は戻りませんよ。ドアが開かないなら、店員がいなくても大丈夫でしょう」
「そ、そっか」
ほっとすると同時に、臨也は我に返って若干引きつる。さっき、自分が何をしようとしたのかについて、上手い言い訳がさっぱり思いつかなかった。ただ何事もなかったかのようにバックヤードからモップを持ってきて、急いで床を拭いた帝人を呆然と見つめた。
帝人君はさっきの、どう思ったんだろう。
そんなことを考えてみるけれど、結論が出るはずもない。ただ一つだけ明確なのは、言おうとした「キスしてもいいかな?」は、口にする前に妨害されて本当によかった、ということだけだ。
だってそんなの言葉にしてしまったら、もう、後戻りができない。
「じゃ、じゃあ、送って行くよ。着替えとかあるなら、待ってるし」
「……自動ドア、今あかないので、裏から出るしか無いですよね。従業員用の出入口が一応あるので、一緒に来てください」
「え?あ……う、うん」
こっちです、とふいに手を引かれて、臨也はビクリと体を硬直させた。一緒に御飯を食べた回数は両手でも足りないが、暗闇で手をつなぐなんてシュチュエーションに陥ったのは初めてのことだ。
掌のぬくもりに、思わず涙ぐみそうになるほど感動している自分がいる……いや、泣かないけど!
店の奥に続く、バックヤードへの入り口を押し開けて、商品の積まれた倉庫を抜ける。突き当たりのドアに、従業員控え室の文字が見えた。
「上着だけ着替えるので、少し待ってくださいね」
「あ、う、うん!明かりなくて平気?携帯のディスプレイ、明るいからひらいておこうか?」
「あ、お願いします」
臨也が張り切って両手に携帯を持ち、掲げたおかげでスムーズに着替えも終わった。いつも通りの肩掛けバックを持ち、ほしておいたカッパを手にとって、帝人は臨也に歩み寄った。
「あの、ごめんなさい」
「え?な、何が?」
「いえ何がって、さっき。抱きついちゃってごめんなさい」
ペコリと頭を下げる帝人に、なぜ謝られるのかよくわからない臨也である。臨也にとっては嬉しいイベントだっただけに、普通男が男に抱きつかれるのは気持ち悪い、とかいう一般的な考えに思い至らない。
「実は、苦手なんです、その……」
恥ずかしそうに、罰が悪そうに、帝人は一度大きく息を吸って、吐いて。


「雷が」


どおん、と遠くで雷鳴の音がする。
カッと窓から差し込む瞬間の雷光の感覚も短く、大雨の音と合わさって不安を煽るようだ。臨也が瞬きをして息を吸い、吐き、それからもう一度吸い込んだ。
「あ、あのさ」
とても真面目な顔で、切り出した声は震えていた。
ここで「誰にでも苦手な物はあるよ、いつでも俺を頼っていいよ」位のことを言えるのならば、この恋はこれほどもどかしい進行速度ではなかっただろう。もちろん、帝人の前ではなぜか上手く話せない臨也に、そんなことが言えるはずもない。
「……あの、とても情けないことを言ってもいいかな」
臨也の重々しい言葉に、帝人は何か大事なことなのだろうか、と身構える。
「はい、何でもどうぞ」
このタイミングで、もしや脱ニート宣言でもするというのだろうか。いやまさか。でも臨也さんは変な人だからあり得るかも知れない。そんなことを考えつつ、心のなかで「頑張れ!言うんだ!」と応援をしていると、青ざめた顔を上げて、臨也が一言。


「俺も苦手だった……」


「……は?」
「そそそそういえば苦手だったよ俺!帝人君が心配で心配で思い出さなかったけど実は苦手だった!」
「え、あ、あの」
「雷だよ!雷じゃないか!」
「そりゃそうですよ、台風ですし」
「あの鼓膜に残る音、大っ嫌いなんだよ!なんで今まで忘れていたんだ!」
いや、なんでって言われても。
自覚したとたんに怖くなったらしく、臨也がひゃあああと頭を抱えてうなだれる様子をあっけに取られて見つめ、帝人はどこか拍子抜けしていた。
なんで忘れるんだろう、帝人の方こそ疑問だ。
だがそれは置いておいても、帝人が心配で思い出さなかった、という言葉はちょっとうれしい物がある。それほど一生懸命になって、迎えに来てくれたのかと思うと感慨深い。
帝人はしみじみとした気持ちで、ずぶ濡れの姿で駆けこんできた今朝の臨也のことを思い出してみた。水もしたたるいい男だった……性格を加味しなければ。
「ええと、大丈夫ですか?」
自分も雷は苦手なのだけれど、自分以上に怖がっている人間を前にして怖いとは癒えない。帝人が耳を塞いでいる臨也に尋ねてみれば、臨也は青ざめた顔で「だ、だだだ大丈夫」と、とても大丈夫とは思えない返事をする。
これは駄目だ。
自分も人のことを言えるほど大丈夫ではないが、それでも確実に臨也よりは平気だ。ということはこの場をなんとか乗り切るには自分が頑張らなくてはいけない。
「えっと、臨也さんのおうちはこの近くですよね」
帝人はとりあえず問いかけてみた。気をそらすためにも会話は大事。臨也の家には一度だけ行ったことがあるが、記憶が確かならば帝人の家よりずっと近場だった気がする。
「う、うん、近いよ、うん」
こくこくと必死になって頷く臨也は、もはや死にそうだ。これはまずい、早々にここから離脱を測って、どうにか落ち着けなくては。
「この雨ですし、雨宿りの意味でも、ここは一旦臨也さんの家に避難するのはどうでしょうか?」
思い切ってそう提案してみると、言われた意味を理解しかねるという顔でぱちぱち瞬きをした臨也が、「ふえ」と間抜けな声を上げた。
それから恐る恐る帝人を指さす。
「帝人君が?」
「え?ああはい、ご迷惑でなかったら。あ、迷惑ならいいんですよ、帰りますので」
「迷惑じゃないよ!全然、ちっとも!さっぱり迷惑じゃないよ!うん!」
即効で否定が返った。迷惑ではないらしい。
「臨也さんも雷が苦手で、僕も苦手なら、一緒にいるほうが怖くないかなと思ったんですけど」
「そ、そうだね!帝人君頭いいね!最高だね!」
「そこまで喜んでいただけると恐縮です……」
さっきまで雷に怯えた小さな子共のようだったのに、今はもうすでに目が輝いている。切り替えがはやいな、と帝人は苦笑しつつも、とりあえず臨也の意識を雷からよそに向けられたようでほっとした。
「そ、そうだよね一緒のほうがいいよね!うん、二人なら怖くない!」
張り切って声を上げた臨也の背後で、裏口が開き、ものすごい雨音と同時に店長が戻って来たのはその時だった。
「竜ヶ峰君、まだいる!?」
「います!これから帰ります!」
作品名:コンビニへ行こう! 後編 作家名:夏野