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見てはいけない

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 見てはいけない



 昨日の話なんだけどさ。
 わたし、塾が終わって家に帰ろうとしてたのね。

 そうそう、電車で30分くらいかかるトコ。遠いよねえ。わたしもホントは純ちゃんと同じ塾に行きたかったんだけどママがダメだって言うんだよ。このへんの塾のレベルじゃ二流か三流の中学しか行けないんだって。まあ確かに学費が高いだけあって教え方は上手いなって思うけどね。

 ああ、違う違う。そんな話はどうでもいいんだ。

 あのね、駅に行く途中の商店街でちょっと変な家族を見たの。両親と姉と弟って感じの4人家族でね、着ている服がみんな古臭くて汚らしいのは別にどうでもいいんだけど、顔がさ、みんな同じなんだよ。なんつうかノッペリしてるって感じ? 目立った特徴があるわけじゃないんだけど、すごく薄っぺらい顔なんだよね。なんか宇宙人が人間の皮を被ってるみたいな。
 親と子の顔が似てるってのは分かるんだけど、両親の顔もソックリなのって変じゃない?

 え? 牧田さん家も夫婦で顔がソックリなの? アハハ、そうなんだ。
 牧田さんとはあんまり話したことないから知らなかったなあ。あの子ってなんか暗いじゃん。いっつも本ばっか読んでてさ、友達とか全然いないって感じだよね。
 そんなことない? へえ、純ちゃんってあの子とも仲いいんだ。ふ〜ん……

 えっと、なんの話だっけ? ああ、そうそう、あの気持ち悪い家族のことだ。

 両親も顔が似てるってのはあるのかも知んないけど、わたしがすごく気になったのは表情なんだよ。その家族は全然話していないみたいなのにみんな笑ってるの。ううん、笑っているような顔をしてるって感じかな。目を大きく開いて、口の両端がグイッて上がってるんだ。家族4人がそんな表情で歩いてたら純ちゃんもビビると思うよお。
 その時間の商店街にはけっこう多くの人が歩いてたんだけど、みんなその家族には近寄らないで遠くからチラチラ見てたのね。でも、わたしはもっと近くで見たくなって、こっちに歩いてくる家族の正面から近づいていったんだ。
 やっぱりね、近くで見るとその家族が異常だってハッキリ分かったよ。左右の目がさ、カメレオンみたいに別々の方向を見てるみたいなの。わたし達とは違う世界を見てるって感じ。変な人は時々見るけどさあ、家族全員ってすごくない?

 ん? ああ、そうだよね。どうやって生活してるんだろうね。可哀そうだよね。

 でねッ、歩きながらその家族の顔を観察してたら、父親の目がちょっと動いてわたしを見たの。(ヤバッ)と思って早足になったんだけど、すれちがう時に「すみません」って声が聞こえた。それってどう考えてもわたしへの言葉だったから心臓がキュウッてなったよ。だけど、普通の顔で「はい?」って振り向いたんだ。無視するのもなんか怖かったから。
 そしたら「駅に行くにはこちらでいいですか?」って、ちょっとモゴモゴした変な声で聞いてきたの。他の家族も立ち止まってわたしの方を向いてた。でもね、その顔はずっと同じなんだよ。お面を付けてるみたいに固まってんの。それで、つい「そうです」って言っちゃった。
 その家族が歩いている方向は近くの駅とは正反対だったけど、わたしが行こうとしている駅に来るのが嫌だったんだ。まあ、言ってから(しまった)と思ったけどね。もう遅かった。
 反対方向に歩いていっても駅はあるんだよ。あの家族の歩くスピードだと30分以上かかるかも知れないけど。ドコの駅とは言ってないんだから嘘ついたわけじゃないよね。
 とにかくこれで離れられると思ってたら、わたしと同い年くらいの女の子が「なんで笑ってるの?」って言ったの。やっぱりモゴモゴした棒読みの口調で。
 わたしはちょっとムッとしながら「笑ってません」って答えたよ。だって、ホントにぜんぜん笑ってなんていなかったし、気持ち悪い笑顔をしているのはお前の方だろうってツッコミたくなったね。
 でも、その子はただ黙ってわたしの顔を見ていて、今度は弟が姉のマネして「なんで笑ってるの?」って言ってきたから、もうなんにも答えないで歩き出した。純ちゃんだって、そうするでしょ?
 途中で後ろをチラッと見たら、さっきの場所で立ち止まったままだったんで、すぐに前を向いて急いで駅に向かったんだ。

 ああ、そうだね。駅も知らないんだから、あのへんの人じゃないのかもね。でも、もしかしたらどっかからか逃げ出してきたんじゃないかな? あそこって高い塀に囲まれた病院みたいな建物が近くにあるんだよ。

 それでさ、駅のホームで急行を待ってたんだけど人身事故で遅れてたの。あれってやっぱり飛びこみ自殺なのかね? ホントすっごい迷惑。
 早くその場所から離れたかったからイライラしてた。その前の各駅電車に乗れば良かったって何度も思ったね。でも、本当に後悔したのは階段を上ってくるあの家族の姿を見た時だった。
 あいつらの顔は人混みの中でもすぐに分かったよ。向こうがわたしに気づく前に階段から遠い場所に急いで逃げて、ちょうど急行が来たんで飛び乗ったの。
 それで少しホッとしたんだけど、今度は時間調整とか言ってなかなか発車しなくてさあ。奥の方に隠れようとしてもギュウギュウに混んでるんで逆にホームに押し出されそうだったよ。ホント満員電車ってヤだね。
 やっとドアが閉まって電車が動き出したから、なんとなくホームの方を見たの。
 あの家族はまだホームにいたよ。たぶん各駅を待ってたんだろうね。それとも満員だから乗れなかったのかな。
 ちょうどわたしがいるドアの前に立ってた。わざとなのか偶然なのかは分かんない。
 家族全員が何かブツブツ言っているみたいだったけど、もちろんなんにも聞こえなかった。

 ねえ、どう思う? 気持ち悪くない? 気持ち悪いよね?

 それで、家に帰ったら玄関の前にあの家族の姿が! ……なあんてことはないんだけどさ、これからも塾通いであの駅に行かなくちゃいけないのがなんか憂鬱なんだよ。
 純ちゃんも一緒にあの塾に行ってくれればいいんだけどなあ。やっぱり無理だよねえ。とりあえず今度あの家族に会ったら、こっそり写メ撮って送るよ。ついでにネットにも流してみようかなあ。

 ……え? わたしがずっと変な顔で笑ってる? やめてよお、そんなわけないじゃん。わたしは笑ってなんていないよ。
 
 これでこの話は終わり。つまんない話してゴメンね。



 だから……もうそんな顔でわたしを見るのは、やめて。
作品名:見てはいけない 作家名:大橋零人