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COMITIA96見本『夜明け前』

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いつか来る「その時」を願っている


 日が完全に沈み、空に輝くのは満月。
 少女は一人、誰もいない夜道を歩いていた。目指すのは街から少し離れたところにある小高い丘。
 正確には丘と言うには大きく、山と言うには小さいその場所。頂点まで登ると、彼女が住む街のすべてを見渡すことができる。
 手前には彼女が住む場所。ほとんどの建物には明かりが点いていない。人が住んでいない家も多く、そういうところは荒れてさえいる。
 けれど視線を遠くに転じれば明かりの灯った建物。
 そこに住むのは文字通り「住む世界が違う」人々。
飢えを知らず、寒さに凍えることもなく、少ない資源を贅沢に浪費している人種がそこにいるのだ。
少女は纏っているローブの前をきつく合わせ、フードも被りなおす。歩いているときはよかったが、立ち止まると寒さが襲ってくる。
昼間は嫌になるほど暑く、夜は反対に凍えそうなほどに寒い。
親しい人たちは己の家を捨て、屋根のあるところに集まって身を寄せ合っている。そうすることでしか寒さを凌ぐ術がないのだ、もう。
そうして芽生えるのは支配者たちへの不満。
事実、団結した人々と特権階級はもう何度もぶつかっている。レジスタンスと呼ばれる存在だっているのだ。
強い意志を持って立ち上がった彼らは、虐げられる平民たちの英雄である。
しかしながら、団結したとはいえ少し前まで武器を持ったことのない彼ら。普通に考えれば訓練され、武力を持つ国の軍人たちと渡り合えるはずがない。
だが、レジスタンスたちは駆逐されることなく、幾度となく軍人たちに煮え湯を飲ませている。
それには理由があった。
「……」
 役に立たないマントにため息を一つ。彼女は仕方なく両手を合わせた。
 目を閉じ、深く息を吐いた。そして手を広げていく。すると、彼女の手の間に小さな赤い炎が生まれた。
 炎のおかげで寒さが和らぎ、ほっと安堵の息が少女の唇からこぼれる。

 少女は、炎を意のままに操ることができる。大きな炎も小さな炎も同様に。
 物心ついたときにはそういう自分の力に気が付いていた。
 初めはなぜそのような力があるのかわからず、周囲との違いに苦しんだ。
 けれど、今は――。