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ねえ、大斗。
あのころからただ一つ、変わらない気持ちがあるんだよ。
6月に入ってなんだかじめじめして気持ちが晴れない。……これが天候のせいだけかは、定かではないけど。
「美久、英語の訳見せて~!次の授業当たるんだって!」
「はいはい」
友達の藍香はいつもこの時間になると、私のもとへやってくる。頼られて悪い気もしないから、私は机からノートを出して手渡す。
綾川美久、高1。ついこの間までセーラー服を着ていたのに、今ではすっかりブレザーに慣れた。
入学してから2か月が経った教室は笑い声が絶えず溢れていた。以前のように視線だけが飛び交って、なんだかしらじらしい空気が流れていたなんて信じられない。
チャイムが鳴ると、慌てて生徒たちは席に着こうとした。
「うわ~間に合わなかったよ~。ありがと、美久」
「いーえ、頑張れ」
私は微笑んで、ふと教室の戸に目をとめた。
ある1人の男子生徒が、急いで自分の教室へ戻ろうと出ていくところだった。
私の通う高校は、私の家から自転車で2時間のところにある。私の住んでいるところはもともと子供の少ない場所で、1番近い高校が今通っている高校だ。保育園のころから中学校までクラスは1クラス、同級生は同じで、その大半は最寄りの私と同じ高校に通うことになる。
そしてそんな田舎に住む私は、今日も家に帰るためにのんびりと自転車をこいでいた。
高校を出てから1時間半ともなると、周りの風景は変わって草花が多く見られるようになる。そして今走っている川沿いの道を抜けると、私の住む家がある集落がある。
「みいちゃん、こっち!」
河原の草むらで、小学生ぐらいの男の子の声がした。
「どうしたの?」
「ほら」
「……あっ、四葉のクローバー!すごーい!なるくんありがとう!」
ポニーテールの女の子が喜んで声を上げた。
私はその横を自転車で通り過ぎながら、懐かしい思い出を思い出していた。私もあれぐらいの時、いつも一緒にいた男の子が……。
その時、私の横を自転車に乗った男子生徒が抜き去っていった。気を抜いていただけに、驚いてハンドル操作を誤りそうになる。
その男子生徒の制服は私の学校と同じものだった。その姿を見ただけで、誰かはすぐわかった。
「声、かけてくれたっていいじゃん……」
その後ろ姿を見ながら、私はぽつりと呟いた。
大斗は私の幼馴染だ。この集落だと、唯一の同級生ということでもある。小学校も中学校も同じで、昔はよく一緒に学校にも行っていた。それは生まれたときから一緒だと言っても過言ではないぐらいだ。
「はあ……」
私はまだ小さかったころの写真を眺めて、思わず溜め息をついていた。2人で川で遊んでいた時に、親が撮ってくれた写真。この頃はとても仲が良くて、写真に写る私たちは、それはもう満開を迎えたひまわりのような笑顔だ。
最近はなんだか話しづらくなって、いつからか目も合わせられなくなっていた。そんな状況を思い出して、私はそっと目を閉じた。……吐きかけた息を、私は飲み込んだ。