ミカン物語
どんどんどんどん駄目になる。
何故ならこの友人は、いわゆる『腐ったミカン』というやつなのだ。
給料が入れば飲む、打つ、買う。
金が無くなれば誰からでも借りてくる。
借りた金は返せないので逃げ回る。
そしてその避難所となっているのが我が家である。
「もういい加減にしなよ」
ドン、とご飯を机に叩きつけるように置くと、彼は二日ぶりの食事だと言って喜んだ。
「何を」
「酒も博打も風俗も!」
「全部じゃねえか」
「当たり前だ!首が回らなくなって俺んちに転がり込むのもやめてくれ!」
「それじゃあ野垂れ死にだ」
「知らないよ!」
もういい加減愛想も尽きた。
この男は親に黙って大学を退学しておいて、その授業料を全部飲んで打ってなくしてしまっている。それで未だに大学に通っているフリをして親から金を巻き上げているのだ。
そんな不義理な人間と友達でいたって、俺には一文の得もないのだ。
それでも今まで友達でいたのは、友達というものは損得ではないと思うからであって、だがそれだって限度というものがある。
近頃じゃあ物騒な金融屋さんが家の周りをマークするようになって、辟易する。
「とにかく飯を食ったら出て行ってくれ」
「そんなこと言うなよ。もうネットカフェに行く金もないんだぜ」
「知らないったら!」
とにかくこんなことをしていては、俺だってどんどんどんどん駄目になる。
生活を改めるつもりがないなら縁を切ると脅かしてやった方が、こいつの為にもなるに違いない。
「仕方がねぇなぁ」
友人はそう言うと、ガツガツと飯を食って出て行った。
その背中があんまり小さかったから哀れに思ったけれど、心を鬼にして見送ることしかできなかった。
その一年後再び現れた友人は、すっかり身辺を綺麗にして真人間になっていた。
「お前と別れた後、俺も考えたんだ」
このままじゃあいけない。金ばかりじゃなく信用も友人も全部失う。
そう思い直して、言われたとおり何もかもすっぱりやめた。
友人は照れくさそうに笑って、頭をかいた。
「また友達になってくれるか」
俺はウン、と頷いた。
嬉し涙が零れて、俺達は互いに顔を見合わせて笑ったのだった。