VISION 1-6
2台の自転車を手に、涼は立ち止まった。
春が見当たらない。
「勝手な奴…」
電話にも出ない。
涼はその場にしばらく立ち尽くしていたが、
一向に春の姿が見えないので、自転車を1台、戻しに帰った。
そして午前8時頃、涼は大通りに出たが、
通行人が全くいないことに唖然とした。
「なんだこれ…」
学校や会社すべてが休みになったのだろうか。と考えたが、
今朝の新聞を見た限りでは、そのような記述はなかった。
道路の向かいに並んだ木の葉の揺れる音さえも耳に届く。
それほどに静かだった。涼は恐怖した。
「誰もいないのか?」
首を何度も左、右に向けてみるが、人影はない。
そして歩いていくと、コンビニの看板を見つけ、小走りで中に入った。
涼は驚いた。そこも無人だった。
無人であるにも関わらず、電気は付いたままで、自動ドアも開閉するのである。
「誰かいませんか!」
自動ドアが閉まり、蛍光灯が発するジジジという音のみが耳に入る。
やろうと思えば誰でも強盗できる状態だった。
2度、3度声をあげても返事がないので、涼の不安はますます高まった。
「どうなってんだ!」
自転車に乗り、大急ぎで自宅に戻った。
玄関のカギを閉め、窓にもカギをかけ、部屋に戻った。
また春に電話をかけたが、出なかった。
胸に手を当て、涼は心を落ち着かせた。
アドレス帳を開き、友人に一人ずつ電話をかける。
「ただいま留守にしております」
「ただいま留守にしております」
「ただいま電話に出ることができません」
「プルルルルル…プルルルルル…」
「ただいま電話に」
「ハッ!」
「おい大丈夫か!涼!」
「は…春?春なのか」
「俺だよ。ちょっと心配で押しかけちまった。
春は合鍵の場所を知っていたので、入ることができた。
涼は額に汗をかいている。
「ちょっと…悪夢を見てた」
「おまえ、俺とウサミを探してたよな」
「ああ」
「これを見ろ」
春はウサミのケージを指し示した。
そこには、ニンジンをかじるウサミの姿がある。
「え?見つけてくれたのか?」
「違う」
「あ、そうか、夢だったんだな」
「そういうことだ」
「ちょ、ちょっと待て。ウサミを探してたのは夢なんだろ」
「なんで俺が知ってるかって?おまえと同じ夢を見てたからだよ!」
作品名:VISION 1-6 作家名:みつや