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VISION 1-5

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「ん…」
春は目を開けた。
暗がりで携帯を開き、夜の11時であることを知る。
横になってからほとんど時間が経っていなかった。
原因は昼間の居眠りだと考えながら目をつぶり、また眠ることにした。


「んん…!」
鳥がさえずり、朝を知らせている。
春は起き上がり、喉から声を絞ってけのびした。
服を着替えてパンを食べ、歯を磨き、玄関から出ようとする。
「あ!」
そこで、休校のことを思い出した。
「ああ、あーあ」
履いた靴を投げるように脱ぎ捨て、リビングに向かった。
今朝から母を見かけていない。電気も消えていた。
「おーい母さん」
返事は無い。
「はあ」
そのとき携帯が鳴った。涼だ。
「もしもし?」
「起こしたか?」
「いや」
「そうか、今出れるか?」
「幸運にもすぐ出れるぞ」
「頼みがあるんだ、俺の家の前まで来てくれ」
「そこに行かないとダメなのか?」
「ああ、よろしく。切るぞ」
「まさか、体調がやばいのか?」
「いや違う!体はなんともない」
「そうか」
「じゃあよろしく」
電話が切れた。
慌てている様子である。


それから10分後、涼の家が視界に入ったところで、
「おっす」
本人が玄関前に立っていた。
「悪いな」
「頼みって何ですか」
「ウサミがいなくなったんだよ」
ペットのうさぎの名前である。
春にもよくなついている。
「あいつが脱走するなんて珍しいな」
「家はちゃんと戸締りしてるから、外に出れないはずなんだ。
 でもどこにもいない」
「あんな小さいの探せるのか。そこの排水溝のドブに落ちたとか」
「ふざけてる場合じゃない」
冗談で言ったつもりの春だが、逆撫でしたようである。
「涼、とりあえず落ち着いて…」
「そうだ、誰かが拾ってるかもしれない」
「それなら普通連絡してくるだろ」
「そうか、そうだよな」
「おい落ち込むなよ…落ち着けとは言ったけど」
見つかるはずがない。
そう心では思っているのだが、探すフリだけでもしようと、春は歩き出した。
「もう少し範囲を広げてみようぜ」
「ああ、悪いな。大通りまで行こう。自転車2台持ってくるから」


「春!」
「え?」
「新聞見て!これのこと?インフルエンザじゃないでしょ!」
「え?母さん?」
「まだ寝ぼけてるの?」
「俺今、ウサミを探してたんだけど」
「また夢見てたの?ずっと寝てたよ春は」
目の前には布団と、自分の部屋の壁があった。
春は俯き、状況を整理した。
今朝は、休校なのに大学へ行こうとして、
それから涼から電話がきて、
涼の家に向かい、ウサミがいなくなったことを知り、
探しにいくところだった。
その次の瞬間には、こうしてベッドの上にいる。
これと似た現象が、大学でも起きている。
「現実みたいな夢ばっかり見る。わけわかんね…」
「夢ってこれのことじゃないの?」
新聞が差し出された。
一面で最初に目に飛び込んだのは、
「数万人が同じ夢 生物テロか」
「おいおい、ついに」
そして次のようなことが書かれていた。
家族や友人間で、同じ夢を見たという症状を訴える人が病院へ訪れる。
同じ現象が起きたという人が続々と現れ、現在では述べ3万4千人前後に達している。
偶然ではこのような事は起きないという専門家の意見から、
無差別な生物テロが行われた可能性があるとしているが、
政府は「原因究明に全力を尽くしている。まだ安易に決め付けるのは危険だ」と、
国民に冷静さを求めている。
「うわあ、こりゃあすごい」
また、指定の医療機関で無料の脳波測定を受けられる旨と、
その夢についての内容が大まかに書かれていた。
「山の中にある研究施設で地震が起き、女性が二人の赤ちゃんを連れて走る。
 その夫は彼女を銃で撃ち、一緒に瓦礫の下に埋まった」
「俺の見た夢とかぶってる。母さんは?」
「ん~」
「はっきり覚えてないのか」
「そうねえ。とりあえず病院へ行きましょ」
「いや、行ったって治療してくれるわけじゃない。それより」
それより優先すべきことが春にはあった。


携帯の着信音が鳴る。
誰も出ずに、音は続く。
その携帯は、涼が眠る部屋の、机の上にあった。
バイブレーションが携帯を揺らし、だんだんと机の端に移動する。
そして床に、ゴトリと落ちた。
まだ着信音は鳴り続け、1分後に停止した。
涼は穏やかに息をしながら、眠り続けている。
作品名:VISION 1-5 作家名:みつや