VISION 1-3
「あ…うわ!時間過ぎた!」
春は時計を見た。すでに14時である。
やはり自分は危機感に欠けていると再認識した。
立ち上がり、フラフラと廊下に出る。
「誰もいない」
あたりの教室の中を覗いても、授業をしている光景はない。
放課後の、ちらちらと人影が見られる光景でもない。
誰一人いなかった。
春は後悔した。
一人くらいは残っているだろうと踏んだが、
6階、5階と調べても、物音一つなく、静まり返っていた。
恐怖を感じ、春は階段を駆け下りる。
「はあ、はあ」
1階に着き、水を飲みに食堂へと向かった。
ギイと音を立て、ガラス扉が開く。
その直後、奥からガタリ、とイスが動くような音が聞こえた。
ここからは見えない位置である。
人か何か分からず、春は警戒し、壁に沿ってゆっくりと中に入った。
角に立ち、ゆっくりと顔を出す。
「うわ」
「ぎゃあ」
二人の叫び声が響いた。
春と、見知らぬ人間である。
お互いが角の端に立っていたのだ。
「お、おま」
「ああびっくりした」
ヒゲを生やした、地味な格好の男だ。
春は息を落ち着かせ、尋ねた。
「何してるんですかここで」
「い、いや、そっちこそ」
「俺は、さっきの放送聞いて、悩んでるうちにいつの間にか寝てて」
「そうか、へえ」
男はまだ息を切らしながら、ニヤついている。
「それでそっちは?」
「ああいや!別に!」
「?」
春は立ち上がり、そこかしこにあるテーブルに目を留めた。
食べかけのラーメンや丼が置かれている。
床に落ちているものもあった。
「なんだこれ、いくら何でもここまで慌てて病院に行くとか」
「ああ、俺もびびったよ。あんたと同じように寝過ごしちゃってさ。
さっきここに着いたんだけど、厨房の火もつけっぱなしだったんだ」
「んなばかな!」
「いやいや!鍋がグツグツしててさ!すごいイイ匂いでさ!」
「…おまえもしかして、食べ残しを食ってたのか!」
「あ、まあそういうことです」
何か時間がもったいない気がしたので、春は踵を返した。
「よくこんなん食えるな…うまそうだけど、じゃあな」
「え!まって!」
立ち去ろうとする春に、男が駆け寄る。
「ちょ!ついてくるなよ」
「食べ終わるまで待ってくれ」
春は呆れ果てた。
作品名:VISION 1-3 作家名:みつや