雪のつぶて11
周辺は町のネオンに当てられた雪が、昼間とはまた違う輝きと趣をしている。隣のテーブルでは、私立高校の制服を着た女の子が二人、甲高い笑い声をたてて、甘いドーナッツを頬張っていた。二人はお揃いのブランド物のベストを着込んでいた。その下にあるチェックのスカートが、真美の卒業した高校だと教えてくれる。彼女達はお互いの携帯電話を開き、それぞれのものを覗き込んでいた。
根元まで吸い込んだ煙草を灰皿押付けると、残っていた水分があったのか、音をたてて消えた。
隣のテーブルの二人に刺激されたわけではなかったが、携帯電話を開いていた。アドレスのページを繰っていく。ほとんど連絡の取れなくなった友人の名前まで登録されている。消去のボタンを押そうかどうしようか迷い、その末にまたページを捲る。一瞬、目が釘付けになった。
小浜美野里。
いつ登録したのか、まるで覚えがなかった。そのくせ携帯電話の番号から職場の番号、メールアドレスまで表示されている。
マフラーに顔を埋めた美野里は、暗がりに包まれているとわかっていても、吹き出物を隠そうとしたのか。それとも真美に対する後ろめたさか。
結局、消去せずに次にいき、沙織の電話番号を発信した。電波を流す音の後、一回だけのコールで沙織の声が聞こえてきた。
『はあい』
眠たげな声だった。
「何してる?」
『いろいろ』
「いろいろね。これからちょっと行ってもいいかな」
『だって、今日、飲み会だったんでしょ。薬局の』
「もう終わった」
『ふーん。二次会は断わったわけね。で、家にも帰れないので、わたしのとこね』
「そんなんじゃないけどさ」
『昨日会ったばかりだしねー』
「いいじゃないか、別に。夫婦は毎日顔を合わすんだぜ」
『だって夫婦じゃないもん』
「だからこそ、会えるときはさ」
『んー』
そのたった一言を、沙織はやけに引っ張った。
『でも、無理』
「なんで」
『だってわたし、深夜なの。これから出勤。残念でした』
「先に言えよ」
『今言ったからいいでしょ。じゃあね。また時間が取れたら連絡する』
毎度のことながら、沙織は乱暴に電話を切った。相手がまだ話しをしているうちに電話を切るくせが、沙織にはある。今夜ももれなく、まだ言い終わらないうちに切られていた。
三杯目のコーヒーを頼んだ。酔いが遠ざかっていく。
真美のいない夜を、自由に過ごすつもりだった。当てが外れ、半ば自棄になって、コーヒーを飲み干し、店を後にした。