雪のつぶて7
背後に潜む沙織の気配を感じた。
「さいてー」
頬を上気させた沙織は、両手を腰に当てて、忠彦を見下ろしている。
「女の部屋に来てすぐに、ほかの女のことを訊ねる? ふつー。それに、わたし知ってるのよ。忠彦くん、今日、病院に来て、薬局に飛ばされたヘルパーと自分の妹には挨拶して、わたしのことは知らん顔をしたでしょ」
濡れた沙織の髪の先から雫が滴り、忠彦の額を濡らした。
「情報通だな」
「そうよ。わたしの情報源はあちこちにいろいろあるの。病院でなんか悪いことすると、すぐにわたしの耳に入っちゃうのよ。由美子って子となんかあってもすぐにわかっちゃうんだから。悪いことはできないわよ」
「妹だよ、由美ちゃんは」
「義理のね」
両肩を抱き締めながら忠彦の隣に腰を降ろした沙織は、顔を近付け、鼻の頭を動かした。
「ねえ、知ってる?」
「なに」
「義理の兄妹って、結婚できるのよ」
忠彦の瞳が丸くなり、心の奥底に火の粉が飛び散った。
目の前にいた沙織が、くっと咽の奥を詰まらせたのは一瞬。腹を抱え、大口を開けて転がり始める。どれくらい笑っていただろう。沙織は目尻にたまった涙を指で拭い去りながら、ごめんごめんと手の平を目の前でひらひらと振った。
「今日の昼ドラがそういう展開の話しだったのよ。それで思い出しただけ。それよりもあなたのさっきの顔、傑作だったわ。凍りついたみたいになっちゃって」
パジャマの裾を翻して立ち上がった沙織は、焼酎の瓶を取り出している。