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時雨 未桜
時雨 未桜
novelistID. 25968
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血色に染まる月

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助けて、といった声は闇に消える。

慈悲を、といった声は血に飲まれる。

悪魔だ、といった声は銃声に掻き消される。

血と、骸と、死臭しか、そこには存在しなかった。
たった一人。その、少年を除いて。

「誰でも、いいよ」
少年の、ぽつりと呟く声を聞くのは、

「誰か、たす、けて」

――――――――――――闇夜に浮かぶ、月だけだった。



早咲 壱加、16歳、高校二年。
これが、僕のプロフィールデータ。
僕は平々凡々な少年だ。
目立った特徴はこれといってなく、唯一あるとすれば、赤に染まった目くらいだろう。
その変わった瞳も、隠されてしまえば、最早何の特徴もない、としか言いようがない。
その平凡さが、僕の持つ異能を隠すためだと、いったい誰が気付けるのだろうか。

「何か、御用ですか?」
僕はそう、自身の背後へと語りかける。
「僕は隠れたり、しません。だから貴方達も、そうやって隠れていないでください」
隠れるのは好きだけど、隠れられるのは嫌い、なんです。
そういっても、歩みはとめない。ただ、後ろにいる人へと淡々と言葉を紡ぐだけだ。
「早咲、壱加だな?」
「そうですよ。あぁ、なんならコンタクト、とって見せましょうか?それとも、肩にあるシリアルナンバーを見せたほうがいいのかな」
「それは必要ない。“所長”がお呼びだ。本日午後9時までに研究所に来い」
「…………わかり、ました」
僕が肯定の言葉を紡ぐと同時に、男達は離れていった。

「ただいま帰りました」
「お帰り、壱加」
「お帰りなさいです、いー兄。今日は学校、お疲れ様でした!」
「ただいま帰りました、五十鈴さん、雅ちゃん」
今僕が住んでいるアパートで仲良くなれたのは、この二人くらい。
五十鈴さんは誰にでもそうなのだろうが、アパートに入ってきたばかりのとき、自ら僕に話しかけて来てくれたのだ。
雅ちゃんは中学二年生の女の子。僕を「いー兄」と呼んで慕ってくれている。
雅ちゃんには兄がいるらしい。僕は一度もあったことはないけど。

……確信はなく、本人に確かめられるわけでもないが、多分彼女も、そして彼女の兄も、僕と同じなのだろう。
何故そう思うと訊かれても、答えられるわけではないが、あそこで育ったものは、みな一様に、僕と同じ眼をしているから。
「いー兄、宿題教えてくださいっ」
「いいよ。何の科目?」
「数学、です……」
いいながら雅ちゃんはワークを取り出し、ページを示す。
「ここの問題なんですけど…」
「あぁ、これならこの公式を利用して解けばいいんだよ」
示された問題を見て、僕はページの端に小さく、解くための公式を書いてみせる。
「ありがとうございますっ!!」
「他にわからないところは?」
「いえいえっ、大丈夫ですっ!ここだけわかんなかったんですよね…」
「そっか」
ニコニコと屈託なく笑う雅ちゃん。
それをみて、僕は五十鈴さんに今日の夜出ることを伝える。
「あ、そうでした。五十鈴さん、僕、夜ちょっと呼ばれてるんで出てますね」
「わかった。帰りは?」
「うーん…それが、よくわからないんですよ。ただ呼び出されただけなので」
「鈴姉、私も凪渚も今日は出かけます!」
「二人も?三人同時なんて、ただの偶然か?」
「わかんないです。ただの偶然と思いたいんですけど…」
一瞬、言いよどみながらも、雅ちゃんはいつも通りの笑顔で、言った。
「こういうときは、いやな予感ほど、当たりやすいものですから、ね」

夜の、8時55分。
僕と、雅ちゃんと、雅ちゃんの兄の凪渚くんも、同じ場所に立っていた。
「………やっぱりいやな予感は当たりやすいです…」
「僕も、今の今まで僕の考えがあってて欲しくないと思ってたからねぇ…」
「いやー、いー兄さんも同じところ出身だとは知りませんでした。あのアパート、三人も異能候補がいるんですね」
僕の左隣には雅ちゃん、その反対側の右には凪渚くん。
「それじゃあいこうか。早くしないと、遅刻する」
「そうですね。怒ると怖いですし」
いって、僕らは所内に入り込む。

「失礼します」
「「失礼します」」
僕の後に続いて、二人が所長室に入ってくる。
「お久しぶりです、所長」
「久しぶりだね、壱加。それに、雅に凪渚も。元気にしてたかい?」
椅子に座ったまま、彼女は僕らに問いかけてくる。
「えぇ。最近は学校にも慣れてきましたし」
「私も、です。勉強は難しいですが…」
「僕はちょっと不安ですね。雅と離れるのは少し、怖いです」
「そうかそうか。それぞれ、ちゃんとした人格が出来上がってきたんだね、重畳だよ、」

「――――僕の、可愛いかわいい、人形達」

にこりと微笑む彼女に、僕らは動きを止めざるをえなかった。
「ん?どうしたの、ほら、ソファに座ってくつろいでよ。今お茶を淹れるからね。紅茶でいいかい?」
「い、いえ。僕らは、用件を聞きに――」
来ただけで、という声は、彼女によって止められる。
「んん?そんなに急くこともないじゃないか、壱加?くつろいでもらわなきゃ、僕の話が聞けないじゃないか」
「――…はい」
奥にある給湯室へと向かう彼女を止め切れなかったことに対して、両隣から非難するような視線が送られる。
仕方がないと思うんだけどなぁ…二人だって結局一言も発せなかったわけだし。
僕らは無言のまま、ソファへと向かう。
「あぁ、そんなに硬くならないでよ。そんなに難しいことを頼もうってわけじゃないんだからさ」
ソファに腰掛けたと同時に、彼女は給湯室から戻ってきた。手には4つのカップとお茶菓子の乗ったお盆。
「さ、食べて食べて。三人は、ご飯は食べてきたかい?」
「簡単なもの、ですが……」
「そうか。それならよかった。まあ、話は長引かないと思うから、空腹の心配はせずともいいよ」
笑っているはずなのに、この威圧感。“中”にいた頃と、まったく変わっていない。
「それでねぇ、今日三人を呼び出したのには、ちょっとした用事を頼みたくてね。その用事ってのは――――」
いって、彼女はお茶菓子のシュークリームを口へと放り込む。
むぐむぐと咀嚼し、ごくりと飲み込んでから僕らを見る。
そして、口の端にクリームをつけたまま、僕らに「命令」を下す。

「ちょっと、とある人物を殺して欲しいだけの、簡単な仕事だからさ」
作品名:血色に染まる月 作家名:時雨 未桜