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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

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 <アクエリアス>の装着には、現場指揮官の承認と、その権限委譲を受けた士官、または小隊長以上の権限を持つ下士官の許可がいる。
 ミストルティン隊長であるリ―ンが許可を下したことで、<アクエリアス>の装着ロックが解放された。これでいつでも、任意のタイミングで装備できるわけだ。
「私は部隊の指揮に戻るわ。後は頼んだわよ、ヒューケイン」
「了解。隊長殿」
 リ―ンの姿がモザイク状に歪み、光の粒子となって消えた。高速艇に乗り合わせていたのは、彼女のクォンタリアンだった。
「では、総員<アクエリアス>装着。機外に出る。俺の後に続け」
 一同に『命令』を告げ終えたヒューケインの全身を取り巻くように、緑色のCGワイヤ―フレ―ムが、彼を覆った。フレ―ムの上をモザイクが走査し、全身にテクスチャ―が貼られていく。
 量子情報としてコンテナに格納されていた<アクエリアス>が質量を伴う実体として現出した瞬間だった。
 <アクエリアス>を装備したヒューケインの姿は、特撮物に出てくる仮面ヒ―ロ―のようなビジュアルだった。黒いヘルメットマスク。二眼のアイゴ―グル。曲線の中に鋭角が織り交ぜられた、マッシブなデザイン。黒の素地を基調に、所々のラインには白が入り、縁取りは黄金に彩られている。
 リミテッドテンを『キャラクタ―』として売り出すために冶月フィラが企画デザインをした代物だった。
 一同はヒューケインに続き、<アクエリアス>を装着。
 キャビン後部に備えられた自動開閉ドアを潜り、カ―ゴへと向かった。
 女性陣の<アクエリアス>は、ウェットス―ツとレオタ―ドを組み合わせたようなデザインをしている。そのス―ツを素にして肩や腰回りに、各自デザインの異なる追加装甲が、かしこに展開されているという塩梅だ。
 女性陣達のヘルメットマスクにモザイクが走った。すると次の瞬間、マスクが掻き消え、彼女たちの素顔が現れた。本人達の顔をトレ―スして、表面に投映させているのだろう。女性陣の華やかなルックスを、カメラ映えさせるためのギミックといえる。ARツ―ルを通して見るCG映像とは言え、その質感は実物と区別がつかないほど精巧に出来ていた。
 カ―ゴの扉が、圧縮空気とともに開放された。
 宇宙空間へと身を投じるヒューケインと一同。その腰の後ろに幅五cm、前長一メ―トルになる平たいプレ―トが現出する。個人に差はあるが、その枚数、二〜四枚ほど。
 そのプレ―トと<アクエリアス>を仲立ちするよう、間にピンポン玉大の球体が浮かぶ。牽引装置であるその球体は、五〜十センチの間隔を置いて、<アクエリアス>とプレ―トを重力子ビ―ムで繋いでいる。
 プレ―トは、デバイスと呼ばれる補助装置で、『エネルギ―コンデンサ』、『演算補助用ストレ―ジ』、『理論推進飛行機関』等としての機能を兼ねている。
 <アクエリアス>を身にまとい、高速艇から飛び出した一同の背中で、デバイスが白い蛍光を放ち、宇宙に白い軌跡を描き出した。
 先頭を飛ぶヒューケインが、指示を飛ばす。
「俺と凛はフォワ―ド。ナズナとエンリオはミッドでカバ―。臨機応変に対処を頼む。ツツジは後方から援護とフォロ―。戦局をコントロ―ルしてくれ。ご自慢のマルチカノンの威力、見せてくれよ」
「ったく、あったりまえですよ。任せて下さい!」
「栞はバックアップ。<弾頭>(ガラスの剣)の精錬・更新と配布を頼む。ミミリの世話、任せたぜ」
「ええ、もちろん。いざとなれば前に出ます。ミミリさん。私の側から離れないよう、気をつけて下さいね」
「いえ、私も自分のことは自分で守ります。マジェスターですから。生意気に聞こえると思いますが、金雀枝さんはお仕事に集中して下さい。露払い位はして見せます」
 それを聞いて、栞は目を細め、微笑んだ。
「まぁ。では、お願いしようかしら。よろしくお願いしますね、ミミリさん」
「頼もしいね。オ―ケ―だ。嬢ちゃんは栞の護衛だな。こっちも君の手を煩わせないよう、せいぜい頑張るさ」
 ヒューケインが、遠くの宇宙空間を仰ぎ見る。マスクの双眸がぼぅと光った。
 「さぁ、来たぜ。連中のお出ましだ」
 艦隊の前方に見えるガス星雲の中に、黒い斑点がぽつぽつと現れた。
 斑点の数は次第に増していき、ガス星雲を覆い隠すほどにまで膨れあがっていく。
 変異体は大小様々。その形状も多種多様。動物であったり、マシンであったり、不定形だったり、海洋生物みたいなのもいる。
 ブリ―フィングでは七千超と聞いていたが、目に映る変異体の数はそれを遙かに超えているように見える。それは、統一されていない変異体のサイズが曖昧を生み、脳が実態よりも”多い”と認識しているに過ぎない――が、この光景は”圧巻”の一言に尽きた。
 『作戦開始』
 リ―ン・カサブランカが告げると同時に、ミストルティンの艦隊から、アンテナ型の輻射装置が展開された。
 遙か遠く数十キロ向こうにいる変異体群にむかって、輻射装置からイナ―シャルキャンセラ―効果を持つ、不可視の波形レ―ザ―が発射される。
 照射。目標へ到達。成果は…。
 効果はあったようで、目前に迫った変異体群の機動がピタリと止まった。
 リミテッドテン達の眼球上に表示されたARインフォメ―ションには、変異体群の巡航速度がゼロ近くにまで減殺されたことが示されていた。一先ず、作戦の第一段階は成功と見ていいだろう。
『作戦を第二段階に移す。第三、第四艦隊攻撃開始。<ガ―ベラ8>群を前方に引きつけ包囲殲滅陣形を作る』
 リーンの命令を受け、展開していた艦隊と遊撃部隊が一斉に動き出した。
 <アクエリアス>を装備したマジェスター部隊と、人型を模したUG―MAS隊が先陣を
切り、変異体群へとまっしぐらに飛来していく。艦隊から放たれるビームの矢も幾重に。
 戦端を切ったマジェスター部隊のEVB兵器による光波が、変異体群の一角に穴を開けた。素粒子レベルにまで解体された変異体が光の粒子と化し、宇宙の暗闇を照らしあげる。
 その時だった。
 変異体の一部が群れから飛び出し、こちらから見て左翼の方向へと移動をはじめたのだ。
 先刻、速度を減殺されたにも関わらず、移動速度は既に光速度の三パ―セントにまで達している。あっという間に変異体達は、彼方の向こうへと消え去っていった。
 それに異変を感じたヒューケインが、眼前にレ―ダ―マップを展開。何かを探すように、マップ上を指でなぞり――
「おいおい。…なんで――」
 戦闘宙域から数百キロ離れた地点に、一つのオブジェクト。IFF(敵味方識別装置)の光点が示すのは、常備軍の巡洋艦だった。
 このご時世、対A処置を施されていない装備は皆無とは言え、殆ど通常戦力しか持たない統合軍の常備部隊が何故こんな所に――?
 彼らには、本部から事前の退避勧告が届いて居なかったのか。それとも――作戦開始遅延を良しとしなかった索敵部隊の士官が、あえて作戦本部に報告を寄せなかったのか。
――だとしたら、あるまじき怠慢だ。
「早速、面倒ごとかよ…」
 聞こえない声で、ヒューケインは独りごちて、マスクの中で目を閉じる。
 最早、やるべきことは一つしか無い。