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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガールEp:1 まとめ

INDEX|45ページ/80ページ|

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 ユリウスの後ろに控えていた金雀枝栞と呼ばれた少女が、軽く頭を下げて前に出てきた。
 それは常に男性の一歩後ろを歩くという、男を建てる日本女性の奥ゆかしさと、礼儀作法と言うものなのだろう。気品を感じる佇まい。歩き姿一つとっても、実に様になっている。彼女も、凛やヒューケインと同じく、リミテッドテンの一人だった。
 金雀枝栞の姿を見て――正しくは、その雰囲気に圧倒されて、ミミリは体を固くした。
「あ、ど…どうも、は…はじめまして生徒会長。ミミリ・N・フリ―ジアです」
 憧れの人を目の前にして堅くなっているミミリの声は、錆びついて軋んだオルゴ―ルのようだった。
「はじめまして。ご丁寧にありがとうございます、ミミリさん。後期ニ年生の金雀枝栞です。ユリウス様の姪である貴方と言葉を交わせるなんて光栄ですわ。金雀枝(属性コ―ド)でも栞とでも、お好きなようにお呼びください」
「あ…は、はい。では、え…金雀枝さん…会長」
しどろもどろするミミリだったが、栞はそれを特に可笑しく笑うこともせず、慈しむよう
な微笑を投げかけている。
 金雀枝栞とは、色々と話しをしてみたかったが、ミミリにはどうしてもユリウスに聞い
ておきたいことがあった。
「所で、叔父様」
「なんだい?」
「なんで皆さんわざわざ水着姿なんですか?私までいつの間にか水着姿ですし」
「え?」
ユリウスの顔がひきつった。と同時に――

 パキリ。
 と、場の空気が凍った。

(てめぇ、それをわざわざ聞くのかよッ!)
(ミミリ・N・フリ―ジア。恐ろしい子だ…!)
(?)
(あらあら、ウフフ)
 ヒューケインと凛が、戦慄の表情を浮かべていた。ツツジは、訳が判らないという顔を
していた。金雀枝栞は、やはり笑顔だった。
 明らかに、ユリウスの『あの』願望を知って、聞いているものだと周囲(ツツジを除く)は理解していた。
 ――『いつか邸宅のプ―ルサイドに沢山の水着美女を招きたい』。
 ミミリには、にわかに信じられなかった。
 優しく厳粛な叔父にそんな、そんな『アレ』な趣味があるとは思えず、それが真偽であるかどうか確かめたかった。
 それが事実ならば、自分は憧れの人である叔父に対し、少々幻滅を覚える。
 というか、ぶっちゃけ『キモイ』。
 なにしろ年頃なのだ。性的なことに関して、潔癖なまでに神経質になってしまうのは仕方ないことなのだ。
 ミミリが厳かに端を開いた。
「叔父様。これはお母様から聞いたことなのですが」
「うん?」
「『英雄色を好む』という言葉の意味をご存知でしょうか?」
(おい。いきなり直球かよ…!)
 見切れた視界の外で、ヒューケインの目がそう言っていた。
「ああ、英傑というものは戦いを生業とする力強い男性が多い。故に精力が強く、美しい
女性を好むという。いつ戦いで命を落とすとも限らないからね。多くの女性とまぐわって
一人でも多く、自分の子孫を残す確率を上げておかなければと言う男性の本能が、彼らを
そうさせたのだろう。そうした太古の戦士たちの生き様をなぞらえた故事だね」
「それでは、英雄と言う括りで言うのならば、叔父様もその定義に当てはまるのではない
でしょうか。その身一つで宇宙最大の重工企業群、アイテックス・グル―プの頂点にまで
上り詰め、会長職と取締役代表の座に着いた手腕。今では産業シェアの4割を寡占するに
まで至り、先代が創り上げた組織と、GUC政府の兵器受注を一手に引き受けるまでの
コネクションを磐石な物とした実績。まさに現代の英雄と呼ぶに相応しいと思います」
 長々と長舌を振るうミミリ。
 空気の読めない天然の鈍感と周囲に思われがちだが、実は雑学を始め、ビジネスやら経
済といった事情には詳しい。
(確かになぁ。…しかし、すごいな嬢ちゃん。たいした弁舌っぷりだぜ)
(ほほう、見直した。どうして、なかなか博識だ。聡明な子じゃないか)
 ミミリの以外な面を垣間見た凛とヒューケインは、素直に感嘆を漏らしていた。
「なら叔父様も、英雄の定義に則り。多くの女性をそばに侍らし、この手に抱きたいと言う願望がおありなのでしょうか?」
「え?う―ん…」
『もちろん自分も男性の端くれ。そうした願望があると言えばある』と、頭によぎったが、ユリウスは、それを言わなくて本気で良かったと思った。
「だとしたら、私はそうした殿方を軽蔑します。嫌悪します。一緒にいたくもないです。というか、人として最低です。口も聞きたくありません。というか、『キモイ』です」
(ん、なっ…んだとっ!?)

 デデ―ン!

 ユリウスは、雷が落ちたような衝撃を受け戦慄した。
――(潔癖な子だとは思ったがここまでとは。さすが、あの兄夫婦の元で育ってきただけはある。よくぞここまで立派に、高尚な心を持つ子に育ってくれたものだ。だが、しかしだ。もしも私が、『プ―ルサイドを水着美女一杯にした―い、酒池肉林だ。ヒャ☆ホ―イ』
とか言う、密かなハ―レム願望を抱いていると知ったら、間違いなくあの子は私を軽蔑するだろう。あの子は私を親のように慕っているし、なにより憧れの感情を抱いている。
その気持ちを裏切ることなど出来はしないッ。優しい清廉潔癖な叔父を演じなくてはッ…!
さりげなく状況を利用して、栞や凛、ツツジ君、あまつさえ寝ているミミリに水着を着させて、上手いことプ―ルサイドに招くことが出来たというのに…。
今、その意図を見抜かれるワケには行かない。そうなったら、私は破滅だッ!
社会的にも、プライベ―ト的にも。一生、ミミリに口を利いてはもらえないだろう。
なにより、『キモイ叔父さん』のレッテルを貼られてしまうッ!
むしろ、そちらのほうが恐ろしい。…なんとしてでも、事実を隠し通さなければ…!)――
「は…ははは。まぁ、せっかくのプ―ルだしねぇ、皆に遊んでもらおうと思って。プ―ルサイドに普段着なんて、どう考えても粋じゃない。それで皆には水着を着た上で、ここに集まってもらったんだ」
 平然を装って言うユリウスだったが、その額には冷や汗が伝っている。
「叔父様は…、あれ?ス―ツ…です…よね?」
「あ…あはは。まぁ、仕事の合間に寄っただけだからね」
「そうですか。じゃぁ、特別な他意はないと言うことですね」
 ニッコリとして言うミミリだったが、その目からは光沢が消え失せており、どこか得体のしれず、底の見えない恐ろしさがあった。
 その目を見て、顔を青ざめさせるユリウス。
「他意?ど…どういうことなんだい、ミミリ」
「あ…いえ、私の思い違いでした。ああ、よかったぁ。私はてっきり『プ―ルサイドに沢
山の水着美女を招いて、酒池肉林だ。ヒャッ☆ホ―イ』なんていう趣味が叔父様にあるものかと思っていました」

 ドキ―ン!

 ユリウスは心臓に杭を打ち込まれたような衝撃を受けた。
「ははは。何を言っているんだい、ミミリ。そんなわけ無いじゃないか。あ…アハハ」
 そういうユリウスの顔からは、完全に血の気が失せていた。

 ――ユリウスは思った。
(狙ってやっているのかどうか分からないが、鋭いなこの子は…。私の趣味と願望を知って
いるというのか?いや、ミミリはそんな疑い深い性分ではない。無垢で純真な子のはずだ。