情動指数
噴出の切っ掛けなんて些細なことでよかった。右手と左手がぶつかったとか、道を一本間違えたとか、大丈夫かと聞かれるだけでもストレスになる。
完全に眠たければそれでいい。思考が止まれば感情も鈍くなる。目が冴えていれば、そもそも妙な怒りを覚えることもない。少しだけ眠ると、脳が寝ぼけているのか小さなことでも苛立ちが募る。いつもなら、何の感慨も覚えないようなことだらけなのに。寧ろ普段は動かない情動が、暴れる隙を窺っているかのようだった。
付かず離れずの距離を行く鈴村は、樹の内面になど全く気づかない。気取られないように必死なのだから当たり前だ。それでも夢想してしまう。この怒りを、鈴村にぶつけたらどうなるだろうか。順当に怒りで返すのか、それとも。
そんな恐ろしいことなんてできるわけがない。樹は乱れた感情を落ち着かせるために大きく息を吐き出した。