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情動指数

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電車やバスで中途半端に眠った後が一番危ない。樹はぼんやりする頭の中、必死で感情を制御した。感情的になると爆発する嫌いのある樹にとって、湧き上がる理不尽な怒りを押し殺すのは至難の業だった。それでもやらなくてはならない。目の前の人を、感情の嵐に晒してはならない。
 噴出の切っ掛けなんて些細なことでよかった。右手と左手がぶつかったとか、道を一本間違えたとか、大丈夫かと聞かれるだけでもストレスになる。
 完全に眠たければそれでいい。思考が止まれば感情も鈍くなる。目が冴えていれば、そもそも妙な怒りを覚えることもない。少しだけ眠ると、脳が寝ぼけているのか小さなことでも苛立ちが募る。いつもなら、何の感慨も覚えないようなことだらけなのに。寧ろ普段は動かない情動が、暴れる隙を窺っているかのようだった。
 付かず離れずの距離を行く鈴村は、樹の内面になど全く気づかない。気取られないように必死なのだから当たり前だ。それでも夢想してしまう。この怒りを、鈴村にぶつけたらどうなるだろうか。順当に怒りで返すのか、それとも。
 そんな恐ろしいことなんてできるわけがない。樹は乱れた感情を落ち着かせるために大きく息を吐き出した。
作品名:情動指数 作家名:霧谷眞也