神の誤算
神は遥か高く雲の上から杖を下界に振り、こう言った。
「笑えばいいと思うよ」
悲しみを超えた先に見える憧憬。隣人が織り成す笑顔に憧れ、格差無く同じテーブルの上で笑顔を見せ合え。
すると、下界の人間達は何事にもポジティブになり、体を売り続けた少女は地道に静かな笑いがあるバイトを見つけ、公園でリストラに嘆いたサラリーマンは妻に全てを明かし、醤油屋に快楽を求めた寂しがりやの妻は、夫の前向きな笑顔に安心からか泣き崩れた。
そんな家族の姿を確認した思春期の少年は、家族を助ける為に学業を諦め、父と共に仕事を探し出した。
しかし、神の誤算があった。安堵して眠りについた神の住む空の下、人間達は笑いを止められないでいた。
その内、人間達は息が出来なくなり、窒息死してしまったのである。
朝陽が昇る空の上、神は何時もの様に杖を下界に翳し、人間達の姿を確認すると、
そこには川の字で横たわり、幸せな笑顔で永遠に眠る人間達の姿があった。