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放課後の居場所

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「……」


「……やっぱりいた」


少女は苦笑して声を抑えて呟いた。







放課後の社会科資料室。
凍海刹絆(とうみせつき)は、部屋の入口から視界に入らない窓付近の床に座り、ぼんやりと空を見上げていた。
元から使用頻度の低いこの場所は、存在すらあまり知られていない。

なにより、この部屋は鍵が壊れているのである。
そして鍵が壊れている事を知る者は限りなく少ない。元から建て付けが悪いようで、一般的な「扉を開ける力」では開かず、力と勢いが必要である。
だが実のところ、力と勢いを使わずとも簡単に入室出来る方法があるのである。
至って簡単。扉の右下を軽く蹴れば良い。不思議なことに、その方法で簡単に入室出来てしまう。

鍵が掛かっていても掛かっていなくても、扉は開かない。
しかし、鍵を差し込めば『カチリ』と音はする。
そこで偏見が生じるのである。
鍵を使用した時点で、人は鍵が開いたと考える。そして、その思い込みのままに扉に手を掛ける。例え開かなくとも「鍵は開けてある」といった先入観のままに扉に力を込めるのである。

壊れた鍵、建て付けの悪さ、他者の目に止まらない場所。その条件が一致した部屋こそが、この社会科資料室なのだ。

「はー…」
疲れた、と肩を落とす。
ぼんやりとまどろんで、柔らかい西日が穏やかに眠りへ誘う。

凍海刹絆は、学校を散策していた際にこの資料室を偶然見つけた。
それ以来、放課後になんとなく静かな場所に行きたくなったらここに来る事にしている。茜色の空がよく見えて、落ち着ける場所。

この部屋のカラクリを知る人間は、刹絆のみ。

―――否、もう一人いる。


「あ………寝てる、かな…」

時蹈明華(ときとうめいか)。
彼女は以前こっそり刹絆を尾行した際に、彼が入室するのを見たのである。勿論、刹絆が尾行に気付かない訳が無いので、あえて教えたと言う事もあり得るのであるが。
そういったこともあり、時蹈明華もまた、たまにこの社会科資料室へ訪れるのである。

甘い関係、では無い。
苦い関係、でも無い。
一時期は恨んでいたこともあった。
しかし、今は如何かと問われれば、どうしてか〝恨み〟が酷く薄れているのである。
慣れたと言われればそうなのかも知れない。
『零識』を理解したからなのかも知れない。
零識が凍海刹絆以外にも居ると知ったからかも知れない。
何故だろう。

「………」

自分にも、よくわからない。

「……なんなんだろ…」

フウ、と息を吐き立ち膝をついて、ゆっくり腰を下ろす。

わからない。
よくわからない。

「………そういえば私…、」

この人のこと、何も知らないのか…。

唐突。
酷く唐突であるが、よく考えてみると自分は『凍海刹絆』の内面を全くと言って良いほど知らない。

知ったところで何か変わるだろうか。
わからない。
しかし何も知らない、と言うのは少し悔しいのだ。
凍海刹絆は元々何を考えているかわからない。
ここに来て話すのは、いつも自分の方ばかりだ。

「……失礼だな」
「え、」



「声に出てた」
「っえ、……っ!」

明華は口を押さえる。
実際は言葉の断片が零れていただけだが、刹絆には十分だった。

「た、狸寝入り、?」
「いや、寝てたけど」

本当に寝ていたらしい。

「………」

刹絆は小さく溜息を吐いて、問う。

「何か聞きたい?」

「う、……うー…ん」

首を傾げ必死に考え込む少女を見て、


少年は頬杖を付いて小さく微笑した。




End...*
作品名:放課後の居場所 作家名:curoko