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15年先の君へ

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その4




あんなことがあっても世界は変わらず回り続けているわけで、ただの高校生でしかない俺は普通に目覚めて登校していた。
寝て起きたら随分と現実感が薄れ、やはりあれはあの男が冗談を言っているようにしか思えなかった。
だいたい未来から来たなどと、普通に納得する方がおかしい。携帯には折原臨也の名前で見知らぬ番号が登録されていたが、それでもやはり信じられるものではなかった。
春独特の温かさにうっかり欠伸をこぼしながら廊下を歩く。しかしそんな呑気な仕草とは裏腹に、あいつ今度会ったらぶっ飛ばすかと脳裏では非常に物騒なことを考えていた。

「シーズーちゃん」

わざと間延びさせた声にピタリと上履きが止まる。顔だけで振り返れば昨日追いかけていたはずの折原臨也がそこに居た。
顔を見ただけで切れそうになるが、それよりも。

「…手前、今なんつった?」
「あれ?聞こえなかったのかな、シズちゃん」

にやりと口元を歪めてもう一度臨也がそう告げた。間違いねぇ。その気色悪い呼び名は昨日奴が口にしたものと同じだ。
“明日からたっぷり呼ばれると思うからよろしくね、シズちゃん”
脳裏に甦る言葉と共に、俺は妙に冷静になった。たまたまかもしれない。これだけで奴が未来から来たという証拠にはならないだろう。
だが、嘘は言わなかった。
そのことだけで、俺は沸々としていた腹の怒りが治まるのを感じた。
臨也の野郎は一瞬面白くなさそうに顔を顰めたあと、演技染みた仕草で肩をすくめてみせた。

「昨日は残念だったよねぇ、途中で君を見失ってさ。蹴躓いて転んでるのかとも思ったけど全然追ってこないし。非常に残念だ」

べらべらとよく回る口だ。笑ってはいるが、臨也からは明らかな敵意と、ほんの少しの警戒心が伝わってくる。確かに俺はあのままこいつをぶっ殺すつもりだった。俺にもこいつにも殺すという選択肢以外なかったのだから、俺が消えたことはこいつにとっても想定外の出来事だったのだろう。

「まさか俺を見逃したってことは、ないよねぇ?」

その一言で、治まっていたはずの怒りが一気に湧き上がるのを感じた。
見逃す、だと?ただでさえ顔を見ただけで苛々しているのだ。おまけに昨日は結局こいつを仕留め損ねている。
俺は口元を不自然な笑顔に押し留めながら、一歩踏み出した。

「だーれーがー」

気が付けば俺の手は横にあったロッカーに伸びていた。掴み上げれば金属が凹む嫌な音がする。

「見逃すってぇんだ!」

怒号と共に金属の塊を投げる。扉がひしゃげたそれは、バラバラとモップやら雑巾やらバケツやらを次々に吐き出し、廊下を滑っていく。
臨也のやつは事前に逃げていたようで、長く続く廊下の傷を見ては俺に笑いかけていた。

「やっぱりシズちゃんの暴力って理不尽だよね。呆れて物も言えないよ」
「っるせぇ!その呼び方を止めろ!!」

駆け出した俺の足音を合図に、臨也もまた背を向ける。
全力で校舎内を駆け回る俺には既にここが学校だということも、今が朝のホームルームの時間だということも、未来から来た折原臨也の助言も忘れて、ただあいつの頭をぶちのめすことしか考えていなかった。






高校に入学して以来、確実に俺は暴力を振るう場面が増えてきた気がする。
その大半は折原臨也に向けられたものだったが、残りは見ず知らずの人間が相手だった。
臨也を追っていると高確率で喧嘩を売られる。追っていなくても妙な連中から言いがかりをつけられる。そのどれもに身に覚えがなく、俺はいつも暴れていた。
ただ、未来の臨也から連絡があったときは別だった。今日の帰り道であの店の前を通ってはいけないだとかあまりに具体的な指示があるので、なんとなく無視するのも気が引けた俺は一度従ってみたことがあった。すると見事に絡まれることもなく、臨也のうぜぇ顔を見ることもなく、穏やかに帰宅することが出来たのだ。
その後も度々奴から連絡があり、その通りにすると喧嘩を回避することが出来た。奴はどうやら本気で俺と臨也の仲を阻止するつもりらしい。
それは俺にとってありがたいことだったが、一度疑問に思って訊いてみたことがあった。
どうせなら毎日俺と臨也が接触するのを避けた方がいいのではないか、と。あいつが連絡を寄越すことはまばらで、思い出したかのように携帯が鳴る。俺はいつもそれが不思議だった。
そう口にすると奴は携帯の向こうで、今の俺に感づかれないためだよ、と笑って言った。
あまり君に構うと、俺が動き出す。今はまだ騙せているけど、我ながら厄介な相手だよ、と電波に乗せて声がする。あぁそういえばこいつは現代の臨也には会えないんだった。近付いただけでぶっ倒れるなど、こいつの一番の天敵なのだろう。今の臨也がこいつの存在とそのことを知れば何をしでかすか、それくらいのことは俺でも想像がつく。
じわじわ引き離すつもりだと、臨也の声がする。最近気付いたことだが、俺はこいつと話していてもあまり苛つかなくなった。俺に協力するのは本気のようだし、何より今のあいつのようにベラベラと余計なことを口にしない。
寧ろ学校で大きな行事があるときなど、電話で説明するのが困難なときはちょくちょく会うことすらあった。どう動けば俺が最低限の怒りで済むのか、丁寧に教えてくれる。
俺はサングラスのかかる奴の顔を見ながら、どうやったらうぜぇ今のあいつがこいつになるんだと、いつも首を傾げていた。
未来から折原臨也がやって来て数ヶ月。季節はいつの間にか、夏に変わっていた。


作品名:15年先の君へ 作家名:ハゼロ