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15年先の君へ

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その3




どのくらい走っただろうか。全力疾走に近い形で池袋の街を抜け、人目を避けてまわった俺たちは、今見知らぬ川のほとりにいる。高く積まれた土手からは、夜景を反射する水面が一望できた、
そこでようやくあいつが手を離した。始め息も絶え絶えだった男はいつの間にかケロリとしており、手を広げながらくるりと俺を振り返った。

「ここならまぁ、大丈夫かな」
「…なんなんだ手前は」

闇に溶け込みそうな男を睨みつける。彼はふっと口元だけで笑ってみせた。

「感謝して欲しいなぁ。君があのまま折原臨也の後を追っていたら、トラックに撥ねられるところだったんだよ。ま、撥ねられても傷ひとつつかないけど」
「アァ?んでそんなこと知ってやがる」
「簡単なことさ。“俺”が折原臨也だ」

一瞬言われた言葉を理解するのに数秒かかった。そして、は?と声をあげる。
目の前の男はいとも楽しげな笑い声をあげた。

「混乱するだろうねぇ。君はさぁ、俺が未来から来たって言ったら…信じる?」

俺はしばらく絶句した。こいつは何を言っているんだ?未来?…冗談か?
ピキリと、額に血管が浮かんだ。

「ふざけてんじゃねぇぞ…」
「ちょっと、怒らないでよ。ホラ」

そう言って奴はサングラスを外した。今日見たばかりの赤い瞳が確かにそこにあった。
だが俺の記憶にあるオリハライザヤと、ほんの少し違う気がする。背だってこんなに高くなかったはずだ。ちゃんと奴の顔を覚えているわけじゃないが、なんとなく。

「…老けた?」
「ちょ、それ本気で傷つくんだけど!」

彼は何事か喚いていたが、俺は更に混乱した。こいつは確かにオリハライザヤであるのかも知れない。
そうなると本当に未来から来たのか?じゃあ俺が追っていたオリハライザヤは何者なのか。そもそもこいつはなんで俺を助けたりなどしたのか。
あぁ面倒くせぇ。細かいことを考えるのは苦手だ。

「手前が未来から来たとして、俺になんの用だ?」
「おや?信じてくれるみたいだね。まぁ君の場合考えるのが面倒になっただけかな」

人の胸中を読みながら、奴はそうだねぇ、と口を開く。

「俺は君と折原臨也の仲を阻止しに来たんだ」
「はァ…?」

よくわからない相槌をうつと、彼はまた口を動かす。

「怒らないで聞いてね。残念なことに未来の俺と君は夫婦なんだ。あぁ、未来じゃ同姓の婚姻は日本でも認められている。ところが、今の君たちがしているように俺たちは相変わらず殺し合いを続けていてね。そんな最低最悪な関係に疲れた君が音を上げて、俺も君の相手にほとほと疲れていたから、お互い嫌気が差して見事別れ話。別居状態で、もはや修復は不可能」

そこで、と奴は人差し指で俺をさす。

「こんな不毛な人生を歩むくらいなら、いっそ君に付き合わずに生きたいと思うのが普通だろう?君の為にもね。俺は過去に戻って俺たちが知り合うのを止めようと思ったんだよ。まぁ結局会ってしまったけど」

俺はもはや考えることを放棄していた。話が突飛過ぎて全く理解できない。
呆然とする俺の目の前で、奴がひらひらと手のひらを振った

「聞いてる?」
「…あああぁああ!!わけわからなくて苛々する!」

手近に物がないため、思わず目の前の男に向け拳を振った。
だから怒らないでって言ったじゃん、と口を尖らせながら、奴はそれを易々と避けた。

「まぁ、先ずは落ち着きなよシズちゃん」
「シズちゃん!?」

聞き慣れない呼び名に思わず訊き返した。彼はあぁ、まだ呼んでないんだっけ、とか呟きながら再び俺へ笑顔を向けた。

「明日からたっぷり呼ばれると思うからよろしくね、シズちゃん」
「冗談じゃねぇ!その気色悪い呼び方を止めろ!」
「あはは、昔の君とおんなじこと言ってる」

未来のオリハライザヤは破顔してみせた。その言動はとても嘘をついているようには見えなかった。
本当に、本当にこいつは未来から来たのか。にわかには信じられないが、伸びた背と、幼さの消えた精悍な顔つきがそれを物語っている。

「手前、今何歳だ?」
「うん?永遠の二十一歳だよ」
「…。……。……殺す!」
「冗談だよ。…その気の短さは相変わらずだよね」

溜息をついて奴が口を開く。三十だと、静かに答えた。

「ってことは、十五年先の未来ってことか?」
「そうなるかな。あぁ安心していい。いくら君と俺が夫婦だったからって、15歳年下の君に手を出すなんてことはしないからさ」

恐ろしい言葉にぞっと鳥肌が立った。当たり前だ。こいつとそんなことになるなんて、想像するだけで寒気がする。
未来の俺は一体何を考えてこんな奴と結婚なんてしたのか。どう考えてもありえない。死んだ方がマシだ。いや、向こうを殺した方がマシだな。

「そうだシズちゃん、いま携帯持ってるよね?」
「あ?」

唐突に話を振られ、そういえば制服のポケットに入れっぱなしだった気がすると、ごそりと漁った。指先に固い感触がある。

「貸して」
「あっ、手前!」

手のひらから携帯を奪われる。奴はうわぁ携帯だ懐かしいなぁ、と感慨深げな声をあげて勝手にボタンを操作した。
舌打ちして苛々を紛らわしていると、そう時を置かずに、はい、と返される。

「俺の番号登録しておいたから。君に用があったら俺から連絡するからね」
「アァ?用なんてねぇだろ」
「あるよ」

彼は珍しく真顔で告げてきた。はじめて見る奴の顔に、思わず俺は目を見開く。

「君と俺は出会ってしまったけど、大切なのはこれからだ。なるべく君が俺と関わらないようにしなきゃ。ねぇ、入学したばかりなのに人から喧嘩売られたの、おかしいと思わなかった?」

それは確かに思っていた。あんな大量に見ず知らずの相手から突っかかられたのも、初めてだった。

「まぁ…」
「でしょ?あれって、今の俺が仕組んでるんだよね。君はこれからそういった身に覚えのない事件に巻き込まれ、大嫌いな暴力を振るわされることになる。それは君にとっても苦痛だよね」

俺は黙ってこいつの話を聞いていた。もしかしてさっきのトラックに轢かれる話も、全てこいつが仕組んだことなのか。

「だから、そういったことに巻き込まれないよう、最大限君に協力するよ。俺の言う通りに行動していれば、暴力を使わずに済む」
「俺はまだ手前を信用したわけじゃねぇ」
「それでもいいよ。そのうち俺の言うことが本当だってわかるから。ただ、君から俺に連絡することだけは止めてくれないかな。今の俺に感付かれるからさ」

そういえば、とそこでひとつの疑問にはたりと気付く。

「…そんなことなら、俺なんかより手前自身に言ったらどうなんだ」

その方が確実だろう。わざわざ俺を捕まえるより話が早い。だいたい手を出してきているのは向こうなのだ。
だが予想に反して、未来のオリハライザヤは肩をすくめてみせた。

「駄目なんだよね。今ここに居る俺に俺が近付くと、立っていられなくなるんだ。あえて言葉で表すなら、吐くほどお酒を飲みながら船酔いにあってぐるぐる回転させられる感じ。だからさっきはちょっと、やばかった」

さっき、とは俺を路地に引きずり込んだときのことか。だからやけに瀕死だったのか。
あながち嘘でもなさそうで、しぶしぶながら俺は納得する。
作品名:15年先の君へ 作家名:ハゼロ