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ミムロ コトナリ
ミムロ コトナリ
novelistID. 12426
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マジェスティック・ガール.#1(9~14節まで)

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9.



 〜深淵に咲く〜

 ※本書は、GUC555年に行われたボイド第一次先遣調査団、
調査員『B』の記録手記をもとに、著者であるダリル・ヴァイアーが編集、
編纂し、ノベル風にアレンジした”ノンフィクション”である。

-GUC(銀河団星間連邦歴)555年 連邦標準日6月15日〜6月29日-

 星の光さえ一片も通らない、静寂と暗黒物質に満ちた領域。
超銀河団を隔てるグレートウォールの向こう――宇宙の泡状構造のその内側。
『ボイドの縁』と呼ばれるそこに”俺は”いた。
いや正しくは、”俺たちは”だった。

 なんてことはない、連邦政府から依頼された簡単な調査観測任務。
調査団のメンバーは、俺と姉。同じ研究所に所属する八人の研究員の総計十人。
 調査内容は至って簡単だった。調査期間は十五日間。
ちらっと、ボイドの入り口に立って、泡状構造の空洞部を
観測してサンプルを拾ってくるだけの。それだけの簡単な仕事だった。


 目的地へと赴くまでの道中、同僚達と身も蓋もない馬鹿話をしたり、
研究の途中経過に関する意見を述べ合ったりして航海の余暇を潰した。
 船にトラブルさえ起きなければ、どうってことのない旅だった。
ありがたい事に、道中マシントラブルに遭うこともなく、
全員揃って無事に目的地へと着くことが出来た。
 後は、任務の目的を達成して数日後に帰還するだけ。
帰りもマシントラブルにさえ遭わなければ、数日後には
皆揃って馴染みのラボで挨拶を交わし、研究に没頭する
いつもの日々に戻れる筈だ。
気に掛けるべきリスクは、マシントラブルぐらいのイージーな冒険だった。

 その日、俺と、俺の双子の姉。
この二人だけがサンプル採取の為、船外へと赴き、同僚達とは別行動を取っていた。
 俺達は、未知の領域に対する好奇心のあまり作業に没頭した。
気がつけば、時計の針は出発した時刻から、
3分の2以上回った所を指していた。
腹の虫がぐぅと音を立てていた。
 「腹ァ、へったなぁ」
流石に腹ペコだった。研究も大事だが、宇宙探検に置いて
食事はもっと大事なことだ。
俺達は、調査サンプルの入ったトランクを担いで、帰り路を急いだ。

 帰れば調査船のエントランスハッチを潜った俺たちを、
いつも通りの軽口を叩いて同僚達が出迎えてくれる。
帰る場所があるというのはいいことだ。
 俺は、わくわくしていた。
たくさんの発見があったからだ。
 晩飯の席で、同僚たちに今日の調査内容について、
大いに語ってやりたかった。
きっと皆、腰を抜かして驚くに違いない。
その光景を想像して、俺は期待に胸をふくらませた。

 約二十五分後。俺達は調査船へと帰ってきた。 
船のエントランスハッチの隔壁に備えられた開閉操作パネルを
手慣れた手つきで押した。
圧縮された空気が開放される音と共に隔壁がゆっくりと開いた。
 隔壁と船内の間にあるチャンバーで、身体スキャンと
加圧を終えた俺と姉は八時間以上ぶりに航宙スーツなしで空気を吸った。

 ――しんとしていた。
船内は、あまりにも静かだった。

 唯一、無音の静寂だけが”音を立てていた”。

 俺達は不思議に思い、一度二手に別れ静まり帰った
船内を歩きまわった。船内の白い壁面と床が透明な静けさを
さらに際立たせていた。
『澄み渡った綺麗な不気味さ』、とでも言えばいいのだろうか。
 船内の研究モジュールにいるべきはずの同僚たちの姿はそこにはなく。
コクピットや資材置き場、電算室。生活モジュール以外部屋は殆ど見て回ったが、
人一人の気配さえ感じとれなかった。

 曲がり角を曲がろうとした所、何かゴツリとしたものにぶつかった。
俺はたたらを踏み、後ろへと倒れこんだ。
 ヒヤリとした。もしかしてSFホラーに出てくるような
化物が皆を食っちまって船内をうろつきまわっているのではという、
幼稚じみた発想が頭の中になかった訳ではない。
もしかしたらというその想像が、俺の心を恐怖に塗りつぶした。
 俺は心底肝を冷やし、しどろもどろになって這うように逃げようとした。
後ろから、声が掛った。
 姉だった。

   ――なぜ。

 それから俺と姉は二人で行動した。
姉に聞くと、やはり船内には誰もいないようだった。
ただし、まだ一つだけ捜索していないフロアがあった。
 生活モジュールの『ある』区画。
脱出用ポッドがある緊急避難通路。そこがまだだった。

 俺と姉は、最悪の事態を想像して、船内の奥へと、じわり、じわりと、
鉄球のついた足枷を嵌められた囚人のような重い足取りで歩を進めた。
まるで、労働に疲れ果てた奴隷のように。
 人間は想像力一つで、何だって生み出せる。
それこそ、超人的なヒーローだって、底なしの恐怖を撒き散らす悪魔だって、
理不尽な破壊の限りを尽くす怪物だって、生み出せないものはなにもない。
 それこそ、恐怖さえも。
そうした想像力が生み出す肥大化した恐怖が、
自然と俺達の足取りを重くしていたのだ。
 どうせなら、楽観的に考えたかった。
心から恐怖を締めだし、『何でもない』と素知らぬ振りを決め込みたくて。
 きっと、皆で隠れて俺たちを驚かそうとイタズラしているに決まっている。
幼稚なイタズラだ、くっだらねぇ。
ホントくっだらねぇ――笑えない冗談だ。

 やがて俺達は、本来ならこの時間、同僚たちが夕食の
準備をしているであろう、
キッチンとリビングのある生活モジュール区画へとたどり着いた。
緊急避難通路に向かう途中だったが、ふと足が止まった。
 半開きになった扉から、塩と胡椒、それに調味料が混じり合った
鼻孔をつくいい匂いが漂ってきたのだ。よく耳を澄ますと、
コンロにかかった鍋からコトコトとスープが煮える音が聞こえた。
俺達の足は自然とキッチンの方へと向いていた。
 見慣れたキッチンの扉に、いつもと違う”差分”を感じた。
ドアの隙間から細い『ヒモ』のような物が這い出ているのに気がついたのだ。
 その『ヒモ』は先端が枝分かれしており、更にその先端部から、
更に細い『ヒモ』を巡らしている。扉を開くと『ヒモ』は、
モジュールじゅうの床と壁に張り付いており、
タイルの底が見えないくらいびっしりと壁面を覆い隠していた。

 一見して判った。
それは、本来 ここにあるはずの無い物。
持ち込んだ 覚えもない物。
あるわけがない  『モノ』。

  ――どうして。

 そして、”それ”はあった。
それは、花だった。

 どんな図鑑にも乗っていない、見たこともない新種の花。
どれも色とりどりで、非常に見目麗しく、匂いも芳しく、

 それでいて、とても――
”とても大きい花”だった。

 成人の人間大くらいの背丈がある、
とても大きい花が、ちょうど――ぴったり

”留守をしていた十人の数だけ”

―― だ れ も い な い n d d。。。。
だ a a aaaaaa うぶltう

見事な花弁を開き、リビングに凛と咲き乱れていた。

――が… げ gyuゅr....ぶ