崩れていく秩序/再びスティーブの手記
再びスティーブの手記
ああ、どうしてこんなことになってしまったのだろう。
やはり僕は化け物だ。
とんでもない化け物なんだ―。
今日僕はかつて住んでいた家に向かった。
これが間違いだったんだ―。
行く宛てもなくただただ町を彷徨っていた僕は無償に両親が恋しくなり家に向かうことにしたのだ。
ただ顔を見ることが出来ればそれで良かった。
たったひと時でも孤独から解放されるなら。
家が建つ番地にたどり着いた僕は交差点に隠れかつての我が家を見つめた。
とたんにとても悲しくなって来た。
どうして自分は化け物なのだ……どうして自分は普通に生活することも出来ないのか。
自分の中に住み着く悪魔がただただ憎くて仕方なかった。
しばらくすると両親が家から出てきた。
二人に続きシスターらしき女性も出てくる(彼女を見ていたら気分が悪くなった)。
三人は何やら真剣な表情で話しこんでいた。
おそらく僕のことだろう。
二人はあそこまで真剣に僕のことを―。
その時頭の中で誰かの声が響いた。
殺せ。
僕は頭を振ってその声を頭から追い出そうとした。
しかし声は一向に止むことはなくむしろ強さを増して行った。
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。
コロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセコロセ。
激しく頭が痛んだ。
僕は必死で祈った。
神様どうか僕をお助けください―。
しかしその祈りが神に届くことはなかった。
頭の中に車のエンジンがかかるイメージが流れた。
その車は最高速度で走り出し―。
僕はこれから起こるであろう出来事に身震いした。
「逃げて!」
そう叫びたかったが声が出ない。
体を動かすことも出来ない。
車はゆっくりと両親のもとに向かって行き―。
しかし車が激突する前に父さんがそれに気付き母さんとシスターの女性を突き飛ばし、自分も車を避ける。
ああ、良かった。
父さんが母さん達の手を取って起き上がらせる。
ほっと胸を撫で下ろしたその時―。
突然どこからか鉄パイプが飛んできて母さんの顔面に突き刺さった。
父さんとシスターの悲鳴。
どうだ?なかなかイカすだろう。
頭の中で悪魔の声が響く。
楽しいだろ、実の親が死ぬ場面を見るのは、何度見てもクセになるぜ。
「うるさいうるさいうるさい!黙ってろこの人殺し!」
僕は悪魔の声をかき消すために叫ぶ。
父さんたちが僕に気付いて呆然とした表情を向ける。
その視線に耐えられなくて僕はその場から逃げ出した。
この体験を念のために書き残しておく。
僕が何をしたのか忘れないために―。
これから僕はどうすればいいのだろうか。
そうだ教会へ……(ここからは突然筆跡が乱れ解読することは不可能となっている)。
作品名:崩れていく秩序/再びスティーブの手記 作家名:逢坂愛発