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いちごのショートケーキ 4

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 「高村君、そんなに落ち込まないでいいよ。調子の悪い日なんて誰にでもあるし、最近の高村君すごい上手になったし、ちょっと足踏みしたって大丈夫。皆色々言うかもしれないけど…音楽、フルートを好きだって気持ちがあれば、怖くなんかないよ」


 ここで聴く高村君のフルートが私は一番好きだった。だるそうにフルートを片手に持ちふてくされながら空を見つめた高村君は私の言葉なんか聞こえてないみたいだった。


 高校から全くの素人でフルートを始めた高村君の上達ぶりを本当にすごいと思い、尊敬している。だからここでつまずくことがあったとしても、それでも彼はきっとそれを乗り越えてあの味わい深い演奏をしてくれると思っている。そう信じていたから、彼を慰めようとした。入部当初からずっと練習に付き合っていた私は彼の努力を知っている。
私を振り返らないままでぼそっと呟いた声は沈んでいるみたいだった。


 「こんな演奏、森下さんには聞かせられない」
 「…ごめんなさい。私、そんなつもりじゃ…」


 私の言葉は彼を追い詰めてしまった気がして暗い顔をして俯く彼に慌てた。


 「気分が乗らないときだって、あるもんね?」
 「そうじゃなくて、森下さんだから聞いて欲しくない」


 振り返って私を見た高村君は苛立ちを隠すように激しい目をしたが、やがて何かを諦めた大きな溜息をついた。


 「今まで黙ってたけど、俺音楽そこまで好きじゃないし、フルートもクラリネットも、興味ないんだ」
 「…じゃあ、どうしてフルートを?」


 突然の言葉に立っているのが困難な程の衝撃を受けて目の前が真っ暗になった。ウソだと、言って欲しかった。いつものようにふざけて「冗談だ」と言って欲しかった。そうしたら私は脱力しながら笑って文句を言えるのに。それからいつものようにここで彼のフルートの音色が聞けるのに。とても澄んで、柔らかな音色。のびのびとして、だけど繊細で優しい音色。彼のフルートが一番綺麗に聞こえるこの屋上で、彼は信じられない言葉を口にした。そしてそれはウソじゃない。それは何より、私をまっすぐに見つめる彼の瞳が証明していた。



 「森下さんがフルートしてたから。森下さんを好きだから。だから、森下さんが一番嫌いな理由で、フルートしてた」