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これでおしまい

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06:「 幸 せ だ っ た よ 。 」




ガイの、眠っている時間が増えていく。
それは確実におかしいのだろう。ゆすっても叩いても起きないことが、多くなった。
眼は、もう色彩を捉えられない。ただ光を受け入れるだけになってしまったのだけど、朝と夜の区別をつけられるために、ジェイドは何も施さなかった。
側にいたティアは、それに悲しそうに瞼を伏せた。


「ガーイ! 生きてる? 元気?」
ばたん、と開いていたはずのドアをもう一度畳み掛けるように開けて、女性らしくなってきたアニスが騒がしくベットに縫い付けられたように動かないガイに近寄った。
彼がもともと女性恐怖症であることも忘れて詰め寄る姿に笑ったのは、久しぶりにガイを見舞っていたジェイドだった。
「アニース、いくらガイが大好きでも、もう少し淑女らしくしないと追い出されますよ」
薄い笑顔を浮かべるジェイドに、身長の伸びて顔の丸みがなくなってきたアニスはジェイドを振り返り、にっこりと笑った。
「大佐ぁ、そんなこと言ったって、ここ数ヶ月ずぅーっと気にしてたんですから、多めに見てくださいよ」
ついでにお久しぶりです、と邪気のあるようなないような笑顔で言うと、ジェイドも楽しそうな声で、ええついでにお久しぶりです、と明らかに遊んでいるであろう顔で言った。
その声を聞きながらガイは懐かしいやり取りに笑みを浮かべる。虚ろな目は光しか取り込まず、なにも映らないけれど少しだけ笑った。
「相変わらずだな、アニス。元気そうで何よりだよ」
声の調子はいつも通り。確かに旅をしていたときよりはだいぶ状況が違うので、体調の関係で少し弱弱しくはあるがそれでもはっきりとした口調に、アニスはガイのベットの傍らに飛びついた。その反動でツインテールの黒髪が揺れるのを、ジェイドは眩しそうに目を細め、見守る。
「あたしは元気だよ。もーガイってば急にご老人生活なんて始めちゃって、びっくりーって感じ」
「はははっ、本当にアニスは相変わらずだなー」
そう言ってガイは腕を上げて側にいるアニスの黒髪を撫でた。ゆるりと黒く艶めくその髪を懐かしそうに撫でる。きっと色やアニスの顔を思い出しながら撫でているのだろう、とジェイドは読みかけていた本を静かに閉じ、微かに笑う。そしてただ驚いたように立ちすくむアニスへ視線を向けた。
色や形を識別できない、と聞いていたアニスは驚いていた。自分を撫でる手は、限りなく優しい。
それでもあの日からと比べると、それはもう過去のことでしかないのだと、思い知ってしまう。
虚ろな目を見つめる。アニスはそっとガイの頬へ手を伸ばし、ゆっくりと頬を撫でた。色の悪い、病的な頬。本当はこうやってただ触れるだけでも昔は無理だったのに、とそっとアニスは笑う。
「治ったんだね、恐怖症」
「ああ。今更だって、ティアに怒られたよ」
苦笑する姿。それを痛いと思うなんて。
アニスは泣きそうな顔をしたけれど、やっぱりガイは気づけない。
アニスは誰かを、失くすことに恐怖する。かつてのあの穏やかで心やさしい人を見殺しにし、世界を選んでくれた(違う、本当は選ばしたんだ)彼を、やっぱり見殺しにした。
嘘の連鎖は結局相手も傷つけて、自分を苦しめるだけだった。

そうして世界は続いた。
失くしたものは多くても、世界は続いた。
それでもかけがえのないものを得たのは確かで、やりたいこともできた。それがアニスの世界、だったのだけど。
「そだねー。もうちょっと元気だったらガイのお嫁さんになってあげてもよかったんだけどねー」
「そうですねぇ。でも長く付き合ってるとアニスの本性なんてバレバレですけどねえ」
「大佐に言われたくないでーす」
「いえいえー、アニスには敵いませんよ」
「……おいおい」
それでも、ガイの世界はきっと彼で。
彼が帰ってこないから、だからガイの世界は色を失くして光を失うんだ、とアニスは思った。
引き止められない自分たちの非力さを知る。自分たちでは、彼の生きる理由にはなれないのだ。
アニスは笑いながら、優しく大きな手のひらを握った。
あの旅の時に助けてくれた手はもう震えない。ただ暖かみを徐々に失くしてゆくんだと考えたアニスは、自分の少し小さな手を重ねて少しでもぬくもりを分けて、笑うことしか出来なかった。

世界を自ら閉じてゆくことは、どんな感じなのだろうか。

アニスは、あの日。
最後に見た、暖かい夕日色の髪をした人の微笑みを(言葉を)、ふと思い出した。


作品名:これでおしまい 作家名:水乃