これでおしまい
04: で も 選 ん だ こ と は 間 違 っ ち ゃ い な か っ た、
ゆるやかな蝕みを止められることもなく、三ヵ月半が過ぎた。
確かにガイは精神身体ともに衰え、病んでいる。それでも会話ははっきりと出来ていたし、生きていく分には問題がなかった。しかし食が細くなったのか、胃は物を受け付けず嘔吐を繰り返し、精神からきた病であろう、咳などで吐血することが多くなってきた。
それでも、ジェイドはなにもしないでいた。
「ジェイド。ガイラルディアを診る気はないのか」
ジェイドの書斎に仕事を放り出してくつろぎに来ていたピオニーの話は、大抵臥せっているガイの話になる。色々話してはいたピオニーだが、ついに何もしないジェイドに痺れを切らしたのか、はじめてその言葉を紡いだ。
ジェイドは、手を止める。目の前には重要書類。紙ひとつで政治が動くのもおかしな話だ、と今更なことをぼんやり思いながら、そうですね、と静かに言った。
「初めに診ましたよ」
「それ以降は? なぜ身体の悪化だけでも止めようとしない」
けして責めるような口調ではない声。軽く聞こえるのは長年の付き合いの所為だろうか、とジェイドは苦笑した。その苦笑をどう取ったのか、ピオニーは怪訝そうに眉を顰め、ジェイド、と威圧を感じさせるように低く唸った。
ジェイドは薄く笑う。
「病は気から。ご存知でしょう」
「それでもあいつを長く生かせられる。精神負担も、もしかしたら、」
ジェイドの返答に溜息をついてから、ピオニーは口を開き顔を上げた。言葉は、続かない。
冷たいジェイドの赤い眼。だけどそれは睨むようにではなく、静かにピオニーを見ていた。
そして胡散臭いといわれている張り付いたような笑みを作るとジェイドは椅子から立ち上がり、ソファでくつろぐピオニーの前まで歩み寄った。続かなかった言葉を喉の奥に飲み込んだピオニーは、そのまま挑発的に笑う。
「なんだ。何か言いたそうだな」
「ええ。あなたのような過去に未練のある人間に、ガイもいろいろ言われたくないだろう、と思っただけですよ」
にこり、と感情のない笑みを浮かべジェイドは書斎を後にし、取り残されたピオニーは、それはお前もだろう、という言葉を噛み殺した。