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うすっぺら
うすっぺら
novelistID. 25195
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剣と魔法とフルメタルジャケット弾1 [序章]

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商業連盟ギルドからほど近い山岳部。山と山の間。
文明の力は自然には遠く及ばず、不安定な気候のせいで進行できないのは、商業連盟一の影響力をもつはずのレーオレ・ダム商業連盟、その軍事的組織の保安維持機構第一分隊にも等しく言える。
かつて、太古の昔人類という種はこの世界で覇権を握っていた。
だが、それは過去のお話。お伽の中の世界。
現在の人類は自然に、世界に、飲み込まれまいとするのが精一杯だ。
夕方からの突然のスコール、そして先のまったく見えなくなる濃霧に分隊は任務からギルドの帰還を断念。
気候が安定するまでキャンプを張り待機することを決定。


ミルクの中に入ったかのような濃霧の中、幻想的ともいえるその純白の中にゆらりと動く黒いもや。
松明の光が届かないところはなにも見えないようなそんな霧の中、そのかすかな異常に気づけたのは警備兵としてやってきた長年の勘ともいうべき感覚があったからこそだろう。
異常を報告しようとして口を開く。
「―――おい…」
と、そこまで言いかけ、言いよどむ。
そこまでの異常ではない。もしかしたら見間違いかもしれない。ただでさえ神経を磨り減らす仕事だ。アイツに無理はさせたくない。
――それにまだ夜は始まったばかりだ。奇襲があるならもうすこし夜が更けてからだろう。
ただし、たとえ人里離れた山奥でも既にギルドの勢力圏内。奇襲する勢力があれば、だが。
「なんですか?ゲオルガさん」
そんなことを考えながら返事をする若者に軽く喋る。
「いや、深夜の警備はお前は初だからな。警備中にぐっすり眠られちゃたまんないんでな」
「またまた、そんなに寝不足に見えますかね。僕」
いや、見えないな。そう言おうとし、口を開いた瞬間、若者の首が曲がった。本来、首が回らない方向に。
当然、そんな方向に曲がってなお生命として存在できるほど人は柔軟ではない。
「えうっ」
そんな音を発しながらかつて若者だったモノは地面に崩れ去った。

「――やあ、お勤め、ご苦労様です」

かわりに現れたのは漆黒のコートを纏った人。人であろうもの。
その声は冗談かと思うほど平坦だった。恍惚に溺れた殺人鬼の昂揚した声でもなければ、この世の絶望を直視した者の聞く者を負に引きずり込むような声でもない。
職業柄そういうのは聞く機会は多い。だが、それらすべてにあてはまらない別種の声質。
コートのフードを深く被り、顔は見えないが恐らく笑ってもいなければ哀しんでもいないだろう。
圧倒的なまでの平均値。『異常な事態において通常』それがたまらなく異常だった。

だが、咄嗟に剣を抜き即座に距離をとる。そして突如現れた敵を観察する。
彼は動揺していたが冷静でもあった。
くそっアイツは残念だった。だがここで動揺してまんまとやられてしまえば、それこそ残念だ。
――まずは、警報を発動させなくては――

しかし、おかしい。一撃であそこまでダメージを与えたんだ。棍棒なりなんなり破壊力のある武器が必要なはずだ。なのに、奴が持っているものといえば握り手のついた黒光りする金属塊を両手に一つづつ。しかし魔法を使うのならば空間魔法陣が必要なはずだ。そんなものは見えなかった。ならば、いったいどうやって。
本来ならば敵の行動を予測する為の思考。相手のリズムを先取りすることで死のリスクを抑える思考。なによりキャンプにいる味方に与えるための情報を獲得するための思考。
だが、その思考が、命取りとなった。
気が付けばいままで観察していた相手は目の前にはおらず、真下からどす黒い殺気が噴出されるのを、感じた。回避も、防御も、視認さえままならない速度で若者をいとも簡単に屠り去った怪物が自分の間合い、それよりさらに近くに現れる。一瞬前まで自分の間合い、さらにその半歩先にいた敵が。
「―――くっ……」
全ては一瞬だった。
反射的に振り下ろされた剣を右の金属塊でいなし、屈んで曲がっていた膝を踏み込むと同時に伸ばす。左の金属塊が突き出される。
ふと、視線が目の前にいく、フードに覆われた暗黒の中、人ならば顔があるはずの場所、地面に落ちていく松明の光を反射し、不気味に輝く紅の双眼を直視した刹那、景色が、反転した。


「―おやすみ。いい夢を」


崩れ落ちる数瞬前まで生命だったモノ。たった今奪った命達に向けてそう呟いた。
――そして、人の気配のするほうへ歩き出す。
まだまだ、まだまだ夜は始まったばかりだ。そしてまだまだ血は流れる。
アンタ達にはこれといった恨みはないがね、こっちも仕事だ。アンタ達も仕事で殺しなんざざらにあるだろう?
なら、まあ勘弁してくれ。俺の依頼主はアンタらの命が紙切れ同然の価値になるほどアンタらが奪った『小包』とやらがが大切らしいんでな。

霧のおかげでよくは見えないが恐らく松明とおぼしき光が多数見える。
やっと本丸に到着か。
目の前に見える薄ぼんやりと見える光へと歩く、亡霊のようにおぼろげに。しかし、確実に。


かつて、憧れた光。
かつて、奪われた光。
かつて、奪い返そうとした光。
そして、届かないと知り、諦めた光。


ミルクの中に入ったかのような濃霧の中、幻想的ともいえるその純白の中にゆらりと動く黒いもや。
霧が晴れる。目の前には武装した警備が8人奥にはまだたくさんいることだろう。


「――やあ皆さん、お勤め、ご苦労様です」