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長い長い家路

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惑星ザナドゥ


早乙女アルトの身柄はバトルフロンティア航空団のマルーン小隊に預けられることになった。
戦闘の真っ最中に緊急フォールドに巻き込まれたため、現有戦力は本来、艦載しているはずの航空戦力の四分の一程度しか居ない。
マルーン小隊も本来は4機の筈だが、今は小隊長のカーリー・シェリー中尉ただ一人だった。
アルトは格納庫でカーリー中尉と引き合わされた。
「SMSから来たって? 乗ってたのはVF-25かい?」
インド系の黒目がちの瞳をきらめかせてカーリーが言った。
20代後半の女性だが、あまり女性を感じさせない。
黒髪をひっつめにしていて、少しばかりはすっぱな雰囲気がある。
「はい。VF-25とYF-29を」
アルトが答えると、カーリーは大げさな溜息をついた。
「羨ましい。心底羨ましい。悪いけど、うちの機体はVF-171EXだ。EXギアの扱いに慣れているなら、操縦に問題はないだろ?」
フロンティア船団の主力可変戦闘機はVF-171ナイトメアプラスだが、対バジュラ戦闘でおくれをとる事が多かった。
本来はVF-25が次世代機として配備される筈だったが、戦闘で生産設備が破壊されたため、代替機として操縦システムをEXギアに合わせてアップデートしたVF-171EXが使用されている。
間に合わせの改造機だが、無いよりはマシだ。
「うちでも一部ではVF-25が配備され始めたところなんだけどね、アタシ等みたいな半端者の処には回ってこないんだよ」
「半端者?」
「アタシは被弾してベイルアウトしたところを、運良くバトルフロンティアに回収された…アルト少尉、あんたの機体は被弾しながらも、何とか着艦できた。だけどパイロットのジェラールは機内に飛び散った破片で失血死してた。他は行方不明…他の艦に拾われてるといいんだけど」
アルトは着馴れたSMS仕様のEXギアを着用して、VF-171EXのコクピットに収まった。
「戦死者の遺した機体で飛ぶのは慣れてる」
アルトの反応にカーリーは目を丸くした。
「修羅場くぐってるね。頼りにしてるよ」
マルーン小隊に与えられた任務は、惑星(ザナドゥという仮称が与えられていた)の都市遺跡調査チームに同行し大気圏内へと降下することだった。
調査対象にはザナドゥ地表で発見されたVF-0Aも含まれている。

翌日。
大型シャトルと、マルーン小隊は惑星ザナドゥの大気圏内へ降りて行った。
着陸地点は宙港と思われる滑走路だ。
ザナドゥの大気は呼吸可能な成分だったが、防疫の為、調査隊は宇宙服を着用している。
大型シャトルのランプドアが開き、高機動車が下ろされ、付近の地表からサンプルを採取している。
マルーン小隊のVF-171EXはバトロイド形態で周囲を警戒している。
「本当に…本物のVF-0Aだ」
調査隊を率いるウラジミール・ヤコブレフ大尉が宇宙服のグローブ越しに機体に触れた。
フォールド機関を備えた宇宙船でさえ到達不可能な惑星に降り立った、地球製のジェット機。
ガウォーク形態で着地したそれは、前につんのめる形で機首が地面にめり込んでいた。
両の機械腕も地面につけられている。
足の爪先に当たる部分と、尾翼、主翼の後縁は焼け焦げていて、ささくれのようだ。高熱に曝された跡だろう。
パイロットがどうなったのか探るためにシャトルから電源車が下ろされ、VF-0Aフェニックスのプラグに接続された。
「開くか…おお」
コクピットにとりついた調査員が、外部からキャノピーを開ける操作を試みたところ、かすかな軋み音を立てながら開いた。
「どうなっている?」
ヤコブレフ大尉に、調査員はコクピット内をのぞき込みながら返事した。
「パイロットネームはShin Kudo…記録通りです。機内からサバイバルキットが無くなってます。多分、持ち出したのかと…これは?」
「どうした?」
「操縦桿にこれが…結びつけて…ありましたっ」
調査員は手を高く掲げた。持っているのは布だ。スカーフぐらいの大きさで、淡い緑色だ。
戦闘機の備品ではなさそうだ。
(シンはサラ・ノームと会えたのだろうか?)
アルトはVF-171EXのコクピットでシン工藤と鳥の人の物語を思い出していた。
ノンフィクション作家が近年になって新統合政府が公開した統合戦争時の資料から再発見したことで有名になった悲恋だ。
記録によれば、かつて地球のマヤン島にプロトカルチャーが残した『鳥の人』と呼ばれるオーバーテクノロジー遺物があったと言う。
『鳥の人』を巡って統合軍と反統合勢力が激しく戦った。
その最中、マヤンの巫女サラ・ノームは鳥の人と一体になって宇宙へ消え、恋人のシン工藤少尉が乗ったVF-0Aもフォールドの光に包まれて後を追って行ったと言う。
そのVF-0Aが、今、目の前にあるとしたら、バトルフロンティアが銀河系まで戻れる可能性も出てくる。
「縁は異なもの…か」
アルトは不思議な因縁を感じていた。
サラ・ノームの妹マオは、シェリル・ノームの祖母だ。
「待ってろよ、戻るからな」
「何、ブツブツ言ってる?」
通信回線の向こうからカーリー中尉が言った。
「あっ…いえ、何でもありません」
心の中だけで独白していたつもりが、声に出ていた。
アルトは少し慌てた。
「アレの…フェニックスのパイロットはどこに行ったんだ?」
カーリー中尉の疑問はもっともだが、誰も答えを持ち合わせていない。
もし、惑星ザナドゥの時の流れが地球と同じだとすれば、VF-0Aは半世紀前に着陸したことになる。
パイロットが生存している可能性は少ない。
「アタシ等は、バトルフロンティアと一緒な分、あのパイロットよりは幸運だな」

同時刻。
調査隊副隊長のラデン・マス中尉は、ジャワ島にルーツを持つ中年男性で、機関員としてフォールド機関を扱うエンジニアだ。
学生時代に宇宙考古学をかじっていたので、副隊長を拝命するハメになった。
バジュラ女王の緊急フォールドがもたらした衝撃で調子を悪くしているバトルフロンティアのエンジンが心配だった。
一方で人類にとって未知の遺跡を調査するのは、学生時代に発掘調査を手伝った思い出が蘇ってきて、少しばかりハイになっていた。
「これは都市…と言うよりは別の施設だな」
「そうですね、居住空間ぽくありません」
高機動車を運転している軍曹と感想を述べあった。
クリスタルのように透明な尖塔が立ち並ぶ遺跡。
尖塔の高さは100階建てのビルに相当するものから、3階建てビルぐらいまで、様々なサイズがあった。
高い尖塔は遺跡の中心部に集中している。
尖塔には人間が(あるいはプロトカルチャーの人々が)入れるような入り口やら、窓のような構造が無い。
高機動車が遺跡の中心部に到達する。
上空では2個小隊のVF-171EXが哨戒飛行をしている。
空を見上げて機影を確認してからラデン・マス中尉は高機動車を降りた。
10人のチームで撮影しながら中心部に密集した尖塔の周囲を歩いてみる。
「中尉!」
チームの一人が尖塔の壁面に開口部を発見した。
どうやらドアが壊れてできたようだ。
海兵の曹長が軍曹と共に小銃を構えて様子を探る。
宇宙服のカメラを赤外線や紫外線モードにして観察した。
何も反応が無いと見て取ると、小型ドローンを建物内部へと飛ばした。
作品名:長い長い家路 作家名:extramf