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リンドウの唄詠い

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序章~二人の唄詠い~


小さな街があった。
舗装された大きな街路の脇に小さな住居が点々と並んでいる。
木造建築がほとんどで、屋根には瓦が使われている。
そのほとんどが古びて、木材が変色して黒くなっていた。
街路は近くの森に向かって見える限りまで果てなく続いており、一本道になっていた。
太陽の光は若干強く、農作業をしている人々は度々汗を拭う。
少し薄着の服装が目立ち、子供達は疲れを知らないように駆け回っていた。

そんな中、山とは反対の方角から人影が二人現れた。
逆光なのと二人が下を向いているのであまり顔は見えないが、男だろう。
すらりとした長身の一人と、身長は平均的だがガッシリとした体つきの一人。
「熱い…っ…」
後者が声を漏らす。
それもそのはずだ。もうすぐ夏だというのに二人の格好は防寒対策をしていると言ってもおかしくないぐらいに厚着なのだ。
道行く人々が怪訝そうな視線を送っていると、いきなり長身の方が顔をあげて声を張り上げた。
「すいませーん!!この街の代表者の方に会いたいんですがー!どなたか案内してもらえませんでしょうかー!」
どこか澄んでいて、低音で心地の良い声音だった。
その声に誘われたのか周辺にいた若い女達が何事かと集まってくる。
さきほどまで農作業をしていたのか田んぼ着の者や、上流階級のものと思われる艶やかな着物を着た娘までいた。
そんな中、一人の老婆が人込みを割るようにして二人の方へ近づく。
「…あんたら、どこからやってきたんだい?」
そう問うと、長身の方が「あー…」と苦笑いを浮かべながら頬を掻く仕草をする。
「どこというか…根無し草なんですよ」
「旅人か」
「いや、普通の旅人とは違うんですけど…」
なんとも歯切れ悪く言葉に困っていると、横にいた体格のいい方が今度は声を張り上げる。
「俺たちは唄詠いをしながら旅してるんだ!とくにここにいらっしゃる兄様は凄いんだぜ!!」
「あっ、こら唱柧!!簡単にばらすな!!」
「ウダク…?変わった名だね」
「あ、ええ。こいつはもともと西の果ての生まれで…」
「そうかいそうかい、えらく遠いところから…
見たところまだまだ若いのに唄詠いをしているなんて珍しいのぅ。
…して、あんたの名前はなんていうんだい?」
老婆が聞くと、長身の方は一瞬はた、という顔をすると、すぐに唇に弧を描きながら
「本当はそう簡単に正体をばらしたくないんですが…
このバカが先にばらしてしまったので自己紹介しておきます」
唱柧を軽く睨みながら、
「極東の生まれ、生まれたときから唄詠いの道を進んでおります。名を、鼕煌と申します」
作品名:リンドウの唄詠い 作家名:karigyura