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黒威みるくの最初のお話

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はっきり言います。
僕は恭介さんの給料日が大嫌いです。
恭介さんがどことなく嬉しそうなのは見ていていやじゃないです。
でもそれを見ると無性に逃げ出したい気分になるんです。
一度だけ逃走を図ったこともありましたが、無駄でした。

博士はとても怖い人です。

メンテナンスなんて、だいっきらいです。





 起動後のはじめてのメンテナンスの日、
博士は僕の電源を落としてくれませんでした。
今にして思えば、それが全ての始まりだったような気もします。
博士が僕の電源を落とさなかったのは、博士が鬼畜な人だったからだとかサディストだったからだとか、そういった理由では決してありませんでした。
ただたんにそれが博士にとっての当たり前だったから、本当にただそれだけだったんです。

 だけど僕の”僕”という意識にとってはぜんぜん違いました。
いや、僕にとっても当たり前だった、はずだったんです。
 
 僕の制作期間の、約6年間。
その頃ならばまだそんなにいろいろとややこしい機能は付いていなかったし、多少の意識はあったにせよ体中をあちこちいじられたところで別段なんとも思わなかったので、本当に、何の問題もなかったんです。
だからこそ博士もうっかり失念していたのだと思います。
 正式に稼働を始めて、まだたったの一ヶ月。
そのたったの一ヶ月間で、
僕に搭載されている人工知能―――AIはいろいろなことを学び、そして急激な成長をとげていました。
それだけ濃い、一ヶ月間でした。
 この頃はちょうど、僕が感情というものを学び、それを徐々に自分のものにしていっていた時期にあたります。
 
 その日のメンテナンスは今でも僕のAIに鮮明な映像の記録として、完全なトラウマとして、焼き付いています。

 以来僕は
 恭介さんの給料日と共にやってくるメンテナンスに
 ひどく怯えるようになりました。








「おい巫戯、起きろ。メンテ終了だ。お疲れさま私」

( ・・・声が、聞こえ、る・・・・これ、は・・・柏木友人の、声紋。
  ・・・・・博士の・・・声、か・・・・・・・)
 
 頭が重い、意識がはっきりしない。
再起動されてすぐはいつもこんなかんじなのだけれど、今回のはちょっとひどい。
なれないデータの処理に僕のAIがまだ手間取っている証拠。
また大規模なアップデートでもしたのだろうか。
搭載されている機能が多いぶん、ただでさえ起動に時間がかかるというのに。
博士が電源を落とすのを渋るのも、きっとこのせいなのだと思う。
 
 第一、僕には余計な機能が多すぎると思う。
 
 この平和な国で人として生活するのに高度な戦闘機能なんて間違いなく不要だ。
博士は趣味だからとか何とか言っているけれど、趣味で容量の大半を使われていればたまったものではない。
まったく、一体全体この人は何を考えているのか。
一応、心理学や人間の行動・思考パターンも人間の群れの中でうまくやっていくための知識としてちゃんとAIにインプットされている。
だからこの人の行動や発言やらを統計してデータと照らし合わせていけば、何を考えているのか、何をしようとしているのか、多少のことはわかるはずなのに。
それなのにどうしても、予測することができない。
脳内にプロテクトでもかけているのだろうか。
博士は人間だけれども、なんとなくありえそうな気がする。

「ん、どうした巫戯。やけに起動に時間がかかるな。どこか不具合でもあるか?」
 
「・・・・あ、いえ。どこにも異常はありません。おはようございます、博士」
 
「ああ、おはよう、巫戯。そうか、異常はないか。いやぁ、よかったよかった」
 
「なんだかそのわざとらしい返答にいささかの不安は感じますが、特に問題はないです。・・・ん、あれ?でも・・・・・・これは?」
 
 体がやけに重い。
具合が悪いとかそういった意味ではなくて、物理的に重い。
動かしづらいわけではないが、メンテナンス前と比べると自身の重量が大幅に増大していた。
急に不安に駆られて、急いで自分の構造図と身体データを確認する。

 なんだ、これは。

「なんだ、気付いたのか。
 別に気付かなくともよかったんだが・・・、ばれちゃ仕方がない」
 
「これ・・・・・なんですか?」
 
「まぁ、保険だな。世の中、何が起こってもおかしくない。
 最低限の自己防衛機能だとでも思っておけばいい」

 はぁ、と、うなずくしかない。
本当にこれで最低限なのか。
でも博士が言うのだから、きっとそうなのだろう。
心の中で自分に言い聞かせる。
 体の中に大量に収納された銃火器類。
普通に生活していたら使う可能性は限りなくゼロに近い気がするが、
でも、博士が言うのだから、きっと必要なものなのだろう。
これは断じて趣味なんかじゃないんだ。

「ま、ぶっちゃけ半分は趣味だ」

 あぁ、やっぱり。
そう思ったけれど、口には出さない。
きっとひどい目にあわされるだろうから。

「さてと。じゃ、恭介に電話して迎えに来させるから。
 服は・・・・・・その辺にあると思う。とっとと着とけよ」

 ぱっと見まわしてみた限りでは服は見当たらない。
たぶんどこかに埋まっているのだろう。
とりあえず発掘作業を始める。
あたり一面、見渡す限り、本、本、本、たまに工具。
あと設計図らしき、紙。
途中、カビの生えたおにぎりを見つけたのでゴミ箱に捨てておいた。
白米は茶色く変色し異臭を放っていた。
いったいどのくらいの間放置されていたのか。

 掘り進めること十分とちょっとで、
僕はようやく自分の制服を見つけることができた。
案の定、それはぐしゃぐしゃになって分厚い本の山に埋もれていた。

「家に帰ったら、まず最初にアイロンがけ、しなくちゃね」

 だって明日は学校だから。こんなぐしゃぐしゃな制服を着て登校したら、きっとみんなに笑われちゃうだろうからね。
そういえば恭介さんの白衣もだいぶ皺くちゃになっていたっけ。
恭介さん無精だから、あんまりそういうの気にしないみたいなんだよね。
ちょうどいい機会だし、まとめて全部洗ってしまおう。

恭介さんの車の音がする。

うん。もう、はやく家に帰りたい。