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発芽ガール。

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台風が来たら学校は休みになるけれど雪が降っても授業はあるので冬は嫌いだった。えー今日はやめようよ、と言いながら足は止めずにベランダへ出る。
後頭部がずっとズキズキと痛むので週末はずっと寝て居た、と言うと千佳は良いなあ良いなあと羨ましそうに私の頭を見る。ギンガムチェックの巾着の中に、ピンク色のお弁当箱に詰められた色とりどりのおかずとフルーツ。添えられたブリスターパックの錠剤。小さい頃、体が弱かった千佳のお弁当はいつも綺麗だ。
左の小指の爪がいいの、と千佳は言う。神様と結婚したみたいで素敵じゃない?何が素敵なもんか、と疼く後頭部を気にしながら私は思う。搔き毟って潰して抉って取り去ってしまいたい。けれど放っておいてもじくじくと痛むそこに爪を立てるなんて想像するだに恐ろしくて、そんなものを羨む千佳は子供だと半ば軽蔑していた。
午後の授業を早退して、保健室で寝ていたら放課後になって千佳が現れた。大丈夫?と覗いてくるその頬の幼さがちょっと好きだ。
「先生がお薬置いてってくれたよ、発芽しちゃった方が楽だからって」
「なんかそういうのいい……かっこわるい」
「じゃ痛み止め飲みなよ、少しはマシだと思うけどなあ」
「ほんといいって……部活は?」
「休んだ、早紀ちゃん具合悪いって聞いたから」
「良かったのに、今からでも行ったら?」
「ううん、早紀ちゃんと帰りたいの。あとね、あした早紀ちゃんのお弁当、千佳が作っても良いかな?」
「なんで?」
「作りたいの、駄目?」
「千佳に作れるかなー」
「だいじょぶだよ、千佳毎日自分のお弁当作ってるモン。」
ね、と千佳が笑った時、後頭部の痛みがすうっと引いた。まるで蓋を開けて湯気が逃げて行くようだった。世界の解像度がぐぐっと上がったような気がする。目の前の千佳がまるで遠くに見える。遠くで千佳が手を打ち合わせてわあ早紀ちゃんキレイねえ、と嬉しそうにする、その指に絆創膏が巻かれている事に初めて気付いた。

おしまい
作品名:発芽ガール。 作家名:あおい