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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夢の館

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 ならば余興の先にもっと価値あるモノがあるということか?
 歩いて進むうちに今いる場所が大階段の裏であることにAは気づいた。
「こちらにも道があったのか」
「奥まった場所にあるので気づきづらいね。この屋敷はT字になっているけれど、二階はそうではなく長方形になっているのだよ」
 そして、大階段の真裏には大きな扉があった。
「その扉は?」Aは尋ねた。
「ふふ、地獄の扉……というのは冗談で、ただの地下への階段さ」悪戯なJの口元。なぜか冗談には思えない雰囲気を醸し出していた。
 やがて階段を上り廊下を進み、Aの部屋の前までやって来た。
 Aは借りていた肩を返してJから離れた。
「ここまでで結構です。ありがとう」
 しかし、Jの手は急にAの腰に廻され、瞬く間に抱き寄られてしまっていた。
「まだ心配だ。ベッドまでお付き合いしよう」
 マスクの下から覗くJの熱っぽい視線。
 耐えかねてAはJを突き飛ばそうとしたが、それよりも早くJはさっと身を引いた。
 そして、この場に現れた二号。
「お館様のお言いつけで参りました。A様のご様態をお館様は案じております。それからG様の墓までの案内を申しつけられております」
 二号の出現にJは軽い会釈だけしてこの場から風のように立ち去ってしまった。
 Aは手の汗をズボンで拭いながら、二号への受け答えを考えた。その時、Aはあることに気づいた。ズボンのポケットになにか硬い物が入っている。だが、その場では確認せずに何食わぬ顔をした。
「少し気分は優れないが、お気遣いは必要ない。Gの墓へはまた今度にするとしよう。あぁ、それから夕食は自分の部屋でゆっくりと摂りたいのだが?」
「かしこまりました。夕食はお部屋までお運びいたします」
「ありがとう」
 なぜかその時、二号の瞳は戸惑うように揺れ動いていた。
「どうかしたのか?」
「いえ、なにもございません」
「本当に?」
「お礼の言葉を言ってくださるのは、A様とJ様だけのものですから」
 会釈をして二号は逃げるように立ち去ってしまった。
 さっそく部屋の中に入ったAはポケットの中を確かめた。中に入っていたのは鍵。とても大きな物で、これを使用する扉も大きなことが予想される。
 いったいどの扉の鍵なのか?
 そして、どうのような経緯でAのポケットに入ったのか?
 経緯については、Aに記憶がないのなら、何者かが混入させたと考えるのは自然だろう。
 では、いったい誰が?
 いつ混入されたのか考えながら、Aは時間を遡った。最後に会ったのは二号だが、鍵を入れられるほど至近距離まで近づいていない。だとするならば、J、そしてマダム・ヴィーが怪しいことになる。その二人にとりあえず絞り、別の方向から二人に繋がる点はないかと考える。
 わざわざ鍵を渡すということは、どこかの扉を開けろということだ。その扉を突き止めることにより、自ずと人物が見えてくるかも知れない。
 この鍵が合うような大きな鍵穴を持つ扉。Aには三つの心当たりがあった。正門、玄関、地下への扉。このうち玄関は元々出入りが規制されているわけではないので、残る二つに絞ることができる。
 推測は一つの可能性。実証をしてみなければ答えはわからない。だが、試すにしても機会を窺わなくてはいけない。
 いつの間にか気分もだいぶ良くなっていた。そのため、Aはさっそく扉を探しに行くことにしたのだった。
 目的もなく無意味に屋敷を歩き回ることでさえ、何かしら危険を感じるというのに、扉を探すことはどこか後ろめたさ、もしくは危険を孕んでいるのではないだろうか。
 急にAは立ち眩みを覚えた。脳裏にはマダム・ヴィーのルージュ。
 彼女は詮索されることを好まないらしい。ならばやはり扉を探すことは、知られてはいけない。だが、万が一、彼女が鍵の送り主だったとしたら?
 まるで手招きされているような……。そうだとしたらぞっとする。それでもAは行動をやめなかった。
 大階段の近くまでやって来た。ここから先は人と出会いたくはない。周りに人がいないことを確かめていた時、大階段の裏から二号が姿を現した。もしも慎重を期せず足を踏み入れていたら、言い訳の苦難することであった。
 二号はAを確認した立ち止まった。
「ご気分はもう宜しいのですか?」
「ああ、だいぶ良くなったみたいだ。そうだ、ここであったのはちょうど良い、Gの墓へ案内してくれないか?」
 扉を探すことは一時取りやめだ。
「かしこまりました。こちらでございます」
 歩き出した二号に付いてAも歩き出した。
 二人は玄関を出て裏庭に向かった。その道筋はAが通ったことにない経路。辿り着いた場所も来たことになかった場所だった。
 そこには崩れかけ、おそらく放置されているのであろう墓石がいくつかあった。同じ場所にGが埋まられていると考えると、たとえ親しみなどなくともAは哀れな気分になった。
 Gの墓にはまだ墓石はなく、十字に組み合わせれた木が立ててあるのみだった。
 膝を突いてAは指を組んで祈りを捧げた。
 立ち上がったAは辺りを見回しながら墓石について尋ねる。
「あの墓は誰の?」
「存じ上げません」
「存じ上げない? この家の者の墓ではないのか?」
「お館様からはなにも聞かされておりません」
 本当にそうなのかもしれない。墓の荒れようを見れば、マダム・ヴィーがこの墓にどのような思いを抱いているのかおおよその察しはつく。もしかしたら思いすらないかもしれない。
「一つ頼みを聞いてくれないか?」もの哀しげな声音でAが囁いた。
「なんなりと」
「時間の空いた時でいい。墓に花を手向けてやってくれないか。Gの墓だけでなくほかの墓にも」
 二号は明らかに言葉に詰まり戸惑っている様子だった。
 しかし、「かしこまりました」と小さく頷いた。
 そしてAは「ありがとう」と呟いた。
作品名:夢の館 作家名:秋月あきら(秋月瑛)