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桜田みりや
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novelistID. 13559
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空白の英雄1

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ロンは何も言わない。返事が必要ないと判断すると彼は何も言わない。ミーファはちゃんとわかっていた。彼は親しくなれば口数が減るタイプの人間なのだ。
「いつ出てっちゃうの?」
「明日だ」
ミーファはびっくりして何も言葉が出ない。ミーファはロンに懐いていたし、もっとこんな日々が続くと信じていた。
「明日の朝にはこの町をでる。今日が最後だ」
ミーファは叱られた子犬のようにしょげていた。
「そんな顔するな。お前はもっと…」
「ミーファ! サボってないで早く運びな!」
店主がジョッキを沢山テーブルに置いて怒鳴っている。
「なんか最近機嫌悪いの、ママ」
一番大きな魔獣であったスィーテが討伐されてから店の景気は悪くなる一方だ。それに比例するように店主の機嫌は悪くなり、ミーファにあたることも多くなっていた。
今ジョッキを用意してもどこのテーブルにも必要ない。ただミーファが休んでいるのを邪魔するだけに怒鳴っているのだ。
それでもミーファには大切な母親だった。だから文句も言わずに立ち上がった。
「バイバイ、ロン」
ミーファはサッと駆けて行った。


町はうっすらと朝日の光に照らされ静かだった。澄んだ朝の光はどこもかしこも白く染め上げている。
朝とはこういうものなのかもしれない。ロンはそんなふうに思いながら町を東に歩いていた。酒場から遠いこの場所は本当に静かで、鳥や虫のささやき声がするばかりだ。
「ローン!」
遠くからそんな声が聞こえた。ついさっきまで話した相手のはずだ。幻聴が聞こえるなんてどうかしている。ロンは振り払うように頭を振り、東を見据えた。蒲鉾型に太陽が昇っている。
「ローン!」
まただ。また聞こえる。それほど思い入れのある少女というわけでもないはずだった。
「ロン! ロンってば!」
あまりにはっきり聞こえたので振り返ってみた。それとほとんど同時にミーファが飛びついてきた。
「ロン、ロン、ローン…!」
ミーファは泣いていた。ロンには理由など全くわからない。別れた時は酒場で少ししょげていたが、元気に働いていたはずだ。
「どうしたんだ」
「ママが!」
詰まる声を必死に押し出して、ミーファは言葉にしていった。
「今まで育ててやったんだから恩を返せって……私怖くて…。ママは無理矢理に私を傭兵さんに!」
ミーファの話の途中から町の奥が騒がしい。ミーファを探しているのかもしれない。
「おい、戻りたいか戻らないか、どっちだ」
ミーファは髪が乱れるのも気にせず首を大きく横に振った。彼女はショックと少しの安堵からかもう全身の力が抜けてしまっていた。
ロンはへなへななミーファを担ぐと、そのまま走り出した。
背中越しに見える朝日に照らされた町は、ミーファの知らない町だった。

ささやき声がするばかりだ。
「トオーン!」
遠くからそんな声が聞こえた。ついさっきまで話した相手のはずだ。幻聴が聞こえるなんてどうかしている。トオンは振り払うように頭を振り、東を見据えた。蒲鉾型に太陽が昇っている。
「トオーン!」
まただ。また聞こえる。それほど思い入れのある少女というわけでもないはずだった。
「トオン! トオンってば!」
あまりにはっきり聞こえたので振り返ってみた。それとほとんど同時にミーファが飛びついてきた。
「トオン、トオン、トオーン…!」
ミーファは泣いていた。トオンには理由など全くわからない。別れた時は酒場で少ししょげていたが、元気に働いていたはずだ。
「どうしたんだ」
「ママが!」
詰まる声を必死に押し出して、ミーファは言葉にしていった。
「今まで育ててやったんだから恩を返せって……私怖くて…。ママは無理矢理に私を傭兵さんに!」
ミーファの話の途中から町の奥が騒がしい。ミーファを探しているのかもしれない。
「おい、戻りたいか戻らないか、どっちだ」
ミーファは髪が乱れるのも気にせず首を大きく横に振った。彼女はショックと少しの安堵からかもう全身の力が抜けてしまっていた。
トオンはへなへななミーファを担ぐと、そのまま走り出した。
背中越しに見える朝日に照らされた町は、ミーファの知らない町だった。
作品名:空白の英雄1 作家名:桜田みりや