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アフターアワーズ

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 慣れないデスクワークをようやく片づけて、大きく伸びをする。終業時間はとっくに過ぎていた。
 既に明かりを落とされて薄暗いオフィスの中で、机を照らすデスクランプだけがただ眩しい。今から帰ったら、家に着くのは一体何時になるんだか。
 溜息をつきながら立ち上がると、机を仕切るパーテーションの向こうで、別の光が皓々と点いているのに気がついた。
「えっ」
「ああ、終わったか。意外と早かったな」
 驚いて上げてしまった声に反応して、切れ長の目が眼鏡ごしに俺を見る。
「ま……まだ残ってたんですか」
「新人ひとりで残しておくわけにもいかないだろう」
 だからってこんな時間まで。一体いつから待たせていたんだ俺は。振り返って時計を確認して改めて青くなる。気づかなかった事とはいえ仮にも自分の上司にあたる人になんて失礼な、いや気付かなかった事自体失礼なのか。ああもう何がなんだかわからない。考えるのは苦手だ。
「すみません。待ちました……よね」
「時間が時間だし、そろそろ帰れって言おうかと思ってたんだが、すごい顔でモニタ睨んでたしな。邪魔するのも悪い気がしたし、それならちゃんと最後までやらせた方が本人のためになるかと」
「……俺、そんなに決死の表情でしたか」
「仕事というより果たし合いみたいだったな」
 穴があったら入りたい。
「お前、ほんと面白い奴だなあ」
「は?」
 さらりと言われた科白に、うなだれていた頭を上げる。それと同時に、ぱしんと背中を叩かれた。背筋を伸ばせ、胸を張れ、そう言われているみたいに。頭のよさそうな感じの細面が俺の顔を見上げて、そしてふと少しだけ、笑う。
「かわいいって言ってるんだよ」
「えっ」
「さー帰るかー」
 聞き返す暇もなく、目の前を通り過ぎた背中が颯爽とオフィスを去っていく。慌てて自分のデスクの明かりを落とし、置き去りにされないようにその後ろ姿を小走りに追いかけた。
作品名:アフターアワーズ 作家名:MYM