この子が国の最高指導者です。
たとえばこの前、居間でカップ焼きそばを作って食べていたら、なんでお箸で食べないの、と母に怒られた。
だってフォークもお箸もなかったんだものと言うと、洗えばあるでしょ、と言い返された。確かにその通りだったんだけれども。
別にスプーンでカップ焼きそば食べて地球が滅亡するんじゃないんだし、何でそんなに気にするのかしら。
それに意外と食べられるのよ、スプーンでも。麺をスプーンの縁で小さく切っておくと、のせて食べやすいの。
同じ食べ方じゃつまらないわ。同じツールは飽きるの。同じ色も。
だから白は嫌いよ。嫌い嫌い。ありふれているわ。
黒は好きよ。ふふ、意外って思う?
あれにはなんだって入ってるもの。なんでも含まれて、あの色になってると思うの。
だからこの前から、炭からいろんな色を抽出しようとして研究しているのよ。
馬鹿馬鹿しいって言わないで。昔いた錬金術師という人たちも、今考えたら馬鹿馬鹿しいけど、昔は大まじめでやってたわけでしょう。
私もそうしたいの。同じ人じゃつまらないわ。同じ声も飽きるの。同じ香りも。
ママは私を馬鹿にしながら、そのあとで軍服を用意してくれたわ。優しいね。
私はそれをカッターナイフで裂いて、ビリビリのを着て、大人達をビビらせにいくの。
あの遊園地まで。
あ、そうそう、遊園地の入場口には、神様の言葉が書いてあるの。素敵でしょう?
この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ、ってね。
作品名:この子が国の最高指導者です。 作家名:速水湯子