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人の振り見て何とやら。

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 オムライスと野菜サラダ、コンソメスープという定番メニューの食事が終わると、彼女は「ごちそうさまでした」と手を合わせてから、ふいとそっぽを向いてしまった。
 ついさっきまでつまらないことで談笑しながら楽しく食事をしていたのに、一体どうしたんだろう。
 理由が見当たらないだけに、正体不明の不安が生まれると水の波紋がどこまでも広がるように止まらなくなってしまう。
 無言で立ち上がり、二人分の食器を重ねて流しへ運ぶ。勢いよく水をひねり出して黙々と洗い物を始める背中を見つめながら彼女が機嫌を損ねている理由を掴みあぐねていると、突然振り返った。
 そのタイミングを逃さず、問う。
「……怒ってる?」
「怒ってない。あなたと一緒」
 え? 僕と?
 返ってきた答えがまるで謎かけのようで、僕はあたふたしてしまう。
 その間に彼女は蛇口をきゅっと閉め、テーブルに戻ってきた。そして僕の前でぷうと頬をふくらませる。
「あなただって、すぐに」
 そこまで言って、言葉を途切らせた。赤い風船がしぼむように、俯く。
「すぐに、背中向けて……」
 後片付け、するじゃない。
 その一言でようやく察する。僕は思わず己の行為を省みて、口元を押さえた。
 ああ、そうか、彼女は僕と、同じことをしたのだ。
 黙って後片付け。
 ただそれだけで僕が彼女は怒っているのかと感じたように、彼女もまた僕が機嫌を損ねたのかと思っていた、らしい。
「ごめんね」
 ぎゅっと抱きしめた背中は先ほど眺めていたものと違ってあたたかい。
「ううん、仕返ししたから、あたしもおあいこ」
 腕の中から聞こえてくる声はいつもと同じだ。怒ってない。
 今夜からは気をつけよう、と心から反省した。
 家に帰るまでが遠足だって言うよな、とぼんやり考えながら。

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元ネタのついのべはこちら。

食事が終わると、彼女はふいとそっぽを向いてしまった。ついさっきまで楽しく食事をしていたのにどうしたんだろう。無言で立ち洗い物を始める背中を見つめながら彼女が機嫌を損ねている理由を掴みあぐねていると、突然振り返った。「怒ってる?」「怒ってない。あなたと一緒」僕と?

「あなただって、すぐに」そこまで言って、言葉を途切らせた。「すぐに、背中向けて……」後片付け。その一言でようやく察する。彼女は僕と、同じことをしたのだ。僕が彼女は怒っているのかと感じたように、彼女もまた僕が機嫌を損ねたのかと思っていた、らしい。「ごめんね」ぎゅ。
作品名:人の振り見て何とやら。 作家名:紅染響