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おやまのポンポコリン
おやまのポンポコリン
novelistID. 129
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禁句

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【 禁句 】 

 サッカーの朝練は早い。
 僕はまだ眠っているお母さんを起こさないように、そっと家を出る。
 母子家庭で、遅くまで働いているお母さんには、もう少し眠っていてもらいたいのだ。

家を出ると、毎日御近所を掃除しているオジサンと出会った。
僕が「オッハー」と挨拶をすると、オジサンは「おおマー君、今日は早いね。おはよ・・・」と言いかけて口ごもった。

気にしなくてもいいのに・・・。
僕は手を振って、その場を走り去った。



コンビニはこんな時間から弁当を買い求める客で、けっこう賑わっている。
店員は「まいどおおきに」と言いながら、てきぱきと応対していた。

朝は本当に気持ちがいい。
道行く人が、同僚とでも出会ったのだろうか「もうかりまっか」「ボチボチでんな」と声をかけていた。

 この日常のありふれた挨拶だが、国語の山下先生によると十数年前までは、大阪のごく一部の地域を覗き、殆ど使われていなかったのだという。
 
 そのころは標準的な挨拶として、「こんにちは」とか「おはよう」を、お礼の言葉では「ありがとう」という、今では聞きなれない言葉が使われていたらしいのだ。
 
 それが使われなくなったのは2011年の大地震の時、CMが自粛されて、かわりにマナーを高める広報が音楽と共にガンガン流れた為だったとか・・・。
 
 その頃小さかった、(僕らよりも少し上の世代の)人達の記憶の中に、恐ろしい大震災のトラウマと共に「こんにちは」や「ありがとう」と言った言葉が刻み込まれてしまったのだ。
 
 その記憶は彼らが思春期を迎えた時に噴き出し、こうした言葉を聞いただけで極度のうつ状態に陥る人が続出。ひきこもりやリストカットの原因になってしまったという。
 
 以来、それに代わるものとして、今の挨拶が奨励されたらしい。
 
 
 学校に着くとクラブの同僚(×仲間)が、「今日は西校と練習試合やからおもろい(×楽しい)ぞー」と呼びかけた。
 
 僕は一目散で校門を駆け抜け、クラブハウスに向かった。
 
 そうそう、言い忘れたが、中でも最も言ってはいけない言葉とされ、完全に放送禁止用語とされているものがある。

 それは「ポポポポーン!」という語句だそうだ。

   (おしまい)


     ※ 3月28日、少し書きなおしました。
 
 

 
 
作品名:禁句 作家名:おやまのポンポコリン