みにくい姫君のお話
さて、騎士エオスと従者のヨハネスは三日三晩馬を走らせて、西の街道の、虎が寝そべってぐうぐうと寝ているところに行き当たりました。その大きさといえば小山ほども大きく、その白い毛皮といえば雪よりも白い、うつくしい虎でした。
騎士エオスは馬を降り、ていねいにお辞儀をしてこうたずねました。
「西の街道の虎、賢いお方、とび色の瞳と亜麻色の髪の姫君が、呪いを解く方法をたずねにまいりませんでしたか。あの方は王国の宝、わたしの愛する人なのです」
すると虎はぱちりと目を覚まし、森の木々がおそろしさにぶるぶるとふるえるようなものすごい声で答えました。
「王国の騎士エオス、獅子の心を持つエオス、あの娘がユピテル姫とはつゆ知らず、おれは姫の心臓から頭まですっかり食べてしまったよ!」
そう言うと、虎はまた目を閉じてぐうぐうと眠ってしまいました。騎士エオスがいくら声をかけてみても、もううんともすんとも言いません。しかたなく、騎士エオスと従者のヨハネスは馬に乗って来た道をとぼとぼともどってゆきました。
ところで世の中には苦役のユダヤ人を導きエジプトを脱出せしめたモーゼがいるように、愛する女性を虎にすっかり食われてしまった哀しみの騎士を導く者もいたのです。つまり物知りのフクロウたちが木の上でぺちゃぺちゃとおしゃべりをしていたのは、騎士エオスがお城を出てから五日目のことでした。
「それにしても西の街道の虎の嘘つきなこと!」
と一羽目のフクロウが言い、
「本当に! ユピテル姫に知恵くらべで負かされて、指一本だってかじれなかったくせにねぇ!」
二羽目のフクロウがそう言うと、三羽目のフクロウがホゥホゥと笑いました。
忠義な従者のヨハネスは、彼は騎士エオスに仕える前は森番をしていましたから、動物たちの話す言葉をすっかり理解することができました。それで従者のヨハネスはフクロウたちの言葉をそのまま主に伝えたのですが、騎士エオスは三羽のフクロウたちを見上げてこう言いました。
「フクロウたち、知恵の女神の従者たち、ユピテル姫は西の街道の虎にすっかり食われてしまったのではないか」
すると三羽目のフクロウが答えました。
「いいえ、賢い姫君の愛する方。ユピテル姫は西の街道の虎よりももっと賢い、南の窪地の鳥の元へいらっしゃいました」
忠義なヨハネスがこれを伝えますと、騎士エオスはたいそう感謝してフクロウたちにいずれ何かお礼をしたい、と申し出ました。三羽のフクロウはきょときょととおたがいの顔を見合わせて、おずおずとこう言いました。
「それでは勇敢な騎士エオス、もしもできることならば、あの西の街道の虎を退治してください」
「あの虎はわたしたちに悪さばかりするのです」
「近くの村の若い娘も、あいつがみんな食べてしまいました」
騎士エオスはユピテル姫を見つけてお城にもどったらあらためて約束を守りに来ることにしようと言い、従者のヨハネスをつれてまた馬にまたがって三日三晩を南へと駆けました。