水底
「マキノさん魚はどうだね。」
ヒロタさんがいつもの煙草をふかしながら訊いてきた。
「消えてしまいました。」
「ありゃ、やっぱり消えたかね。」
「はあ。」
「昨晩は大雨だったからね。いろんなものが流されたんだんだなあ。」
「いろんなものが。」
「ああ。神社の狛犬も流されたってね。魚なんかはすぐ流されてしまうだろうなあ。おおきな流れにかえるのが魚の宿命だからなあ。」
「はあ。」
「ひき連れてかえるんだなあ。それこそいろんなものを連れて行ってしまうわけだ。
おお、ざくろが無事でよかった。来週からは収穫しよう。ねえマキノさんそれがいい。」
「はい。」
その晩実家から連絡があり、沼からおおきな魚の死骸が揚がったと聞いた。